「結月ちゃん、ビッグゲストを連れて来たよ~」
飛鳥井さんが声をかけると、まな板の上で何かを切っていた結月の手が止まり、こちらをゆっくり振り向いた。
振り向き様に飛鳥井さんへ向いていた結月の目線が直ぐに僕へ移り目が合うと、元気なさげな顔から驚きの表情を浮かべ絶句している。
久しぶりに見た幼馴染みの顔は少しやつれていたけれど、慣れ親しんだ人間に再会できた喜びが僕の胸にジワリと滲み出す。
「結月、久しぶり」
絶句したままの結月に歩み寄りつつ声をかけると、彼女は鼻と口を両手で覆い隠し、目からは大粒の涙が流れ出している。
「た、匡なの?」
「ああ、僕だよ。幼馴染みの阿笠匡だ」
言い終えた瞬間、結月は僕に飛び込むように駆け寄り抱きついた。
「生きていてくれたのね…」
僕の胸に顔を埋めたまま震え声でそう言うとそのままの体勢で泣き噦る。その細い背中と腰にそっと腕を回し、優しく包み込むように僕は黙って彼女を抱きしめた。
暫くして結月は泣き止み、手で涙を拭いて笑顔を浮かべながら問いかける。
「病気の治療は無事に終わったの?」
「終わったよ。もう病気は完治してる筈だ」
「そうなのね!良かった~。ほんとにほんとにほんっとうに心配してたんだからね!」
「悪い悪い。治療に関してはあとでゆっくり説明するよ。それより結月の方は大丈夫なのか?」
いつもの調子戻った気がしたので訊いてみた。
「…大丈夫じゃないかもだけど、匡の顔を見たら元気が出てきた!こんなに嬉しいことはないからね」
結月のストレートな言葉を受けて、少し気恥ずかしくなり自分の顔が赤くなっていくのが分かる。
「そ、そっか…僕も結月と再会できて嬉しいよ」
「本当に!?嬉しい!」
彼女は笑顔のままでまた抱きついてきた。
そこへ黙って見ていた飛鳥井さんが声を掛けてくる。
「はいはい。取り込み中のところ悪いんだけど、そろそろみんなで夕食の準備に取り掛かろうか」
間髪入れず、葵さんが飛鳥井さんに向かって口を尖らせながら言う。
「貴方って本当にデリカシーってものが無いのねぇ。若い二人の感動の再会に水を刺すんじゃないわよ」
あっ!?忘れてた!
今この空間には他人様が居たんだった!
再会の喜びより恥ずかしさが一気に膨れ上がる。
抱きついていた結月も同じだったようで、急に僕から離れて顔が一瞬で真っ赤になった。
「あっ、いや、もう無事を確かめられたので….僕も出来ることがあったら手伝いますよ」
「そっ、そうそう、夕食の準備の途中だったわ!」
飛鳥井さんは葵さんに「もうっ!」と言われ、軽く後頭部を叩かれていた。
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