品川家の豪邸の門は電動式になっていて、通常ならスイッチ一つで「ゴゴゴ」と音を立てて両端に動き開くのだが、今は電気が通っておらず、飛鳥井さんが手を当て力づくで門を動かした。
門をくぐると両サイドには芝生や小さな池まである庭が広がり、正面に見える玄関までは30mほど歩かなければならない。
玄関ドアの前に着くと、ドアの付いている壁の右上にある金属のメガホン状の形をした何かがあり、それに向かって飛鳥井さんが言葉を発する。
「飛鳥井で~す!人を見つけて連れて来たんだが、中に入れてもらっても良いかな?」
「…………..」
「ちょっと待ってて!今行くから!」
5秒ほどの沈黙があったあと、結月ではない女性の声でそのメガホンみたいなものから返答があった。
「飛鳥井さん、これってなんです?」
「ああ、これは伝声管ってやつだよ。昔は軍艦とかにも使われていたらしくてね。うちのメンバーには鉄を錬金出来る頭の良いやつがいるんだけど、そいつが一人で半日とかからずに作ったんだ」
「インターホンの代わりってやつですね」
「そゆこと」
などと話していると、内側から「ガチャッ」と開錠する音が聴こえ、鉄製の玄関ドアが開き若くて可愛らしい女性が顔を出して僕と目が合った。
「貴方が飛鳥井君が連れて来た人ね。わたしは新田葵(にったあおい)。葵って呼んでくれると嬉しいわ」
葵さんが人見知りしないとっつきやすそうな笑顔で自己紹介してくれた。
「僕は阿笠匡です。僕のことは好きに呼んでください」
「匡君ね♪よろしく~」
「よろしくお願いします、葵さん。早速なんですけど、家の中に品川結月って女の子が居ますか?」
葵さんが笑顔と驚きの合わさった微妙な表情をして返す。
「ん、居るわよ~。今はシェルターで夕食の準備をしているわ。でも何で君が結月ちゃんを知ってるの?」
「この家の持ち主を知ってて…結月とは幼馴染みなんです。さっき飛鳥井さんから結月のご両親のことを聞いたんですけど…」
「そうだったの…よし!匡君。とにかく中に入ってからゆっくり話そっか」
「あ、はい」
そのあと家の中に入り、玄関から真っ直ぐ続く廊下の先には木製のドアがあり、葵さんが開けると地下に繋がっているコンクリートの階段が見えた。
家にある地下室と造りは似たようなものだな…そう想いながら階段を下ると今度は鉄製のドアを葵さんがまた開ける。
シェルターには電気が通っているようで、中は蛍光灯が点いていて明るかった。
奥の方には料理を作っている見慣れた女性の後ろ姿が見える…結月…
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