「あのぉ、これってお金とかは?…」
「拝借」と言う言葉に引っ掛かり、訝しむとまでは行かないまでも念のため訊いてみた。
「お金かぁ…今は持ち合わせないんだよねぇ。それにもう人間社会は崩壊しつつあるから、君もお金の概念は捨てて良いかもだよ」
「えっ!?」
急にお金の概念を捨てろと言われてもピンと来なかった。
まだ高校生とは言え、それなりにお金の価値は理解しつつあったし、概念そのものを捨てるのはやはり抵抗がある…
「あのぉ、日本政府ってまだ機能してるんですよね?」
飛鳥井さんがニヤッとして答える。
「君が治療に入る前の日本政府はもう無いよ」
「にっ、日本政府が無いってどういう事ですかっ!?」
機能していないどころか、無くなったと聞いて少なからず動揺していた。
「まぁまぁ、落ち着いて聞いてくれ…俺の話が途中だったが仕方ない、先に日本政府がどうなったか教えてあげよう」
飛鳥井さんはそう言って僕の肩をポンポンと叩き話し始める。
「あれは8月10日の朝だったかな…日本の官房長官がテレビやネットの報道番組で声明を出したんだ。『我が日本国は崩壊しました。国民の皆さんはもはや国民にあらず、どこの国にも属さない地球人となります。今後は各自の判断で行動し生活して下さい』ってね」
何だよそれっ!?そんな事があり得るのか?国が滅ぶような事例は世界的に見ればあるにはあったけど、まさか自分の居る日本が滅びるなんて信じられない…
「信じられないという顔をしているがこれは事実だ。俺だって最初にその声明を聞いた時は呆然としたし、とてもじゃないが直ぐには信じられなかったけどね…まぁ、そのうち慣れてくるさ。それに崩壊したのは日本だけではないみたいだから」
そうか、この悲惨な現状は日本一国だけでなく、世界的に起こっている事象なんだ…
「大国のアメリカや中国ってまだ崩壊してないんですよね?」
「いや、残念だけどアメリカや中国は日本より先に崩壊してしまったよ…それだけ国に対して不満を持っていた者や凶暴な奴らが多かったんじゃないかな。神の戒告による全生命体に依るナインスセンスの覚醒は、かつて無い地球規模の危機をもたらしてしまったんだ。神の戒告で他の道も示されていたのに…」
事は深刻さを計り知れない…世界の国々が既に崩壊するなんて、映画の核戦争云々どころの話では無いじゃないか!?
もう訳がわからない…
ん!?神の戒告で他の道も示されていた?…
僕は神の戒告を思い出し、一部を呟く。
「全ての力を解放する先に待つは共存か破滅か、或いは別の道があるのか…」
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