「ほう、若いのに良い呑みっぷりだな」
「ふぅ~、味は良くわからないけど…もう一杯ください!」
「うっ!?そ、そうか。ほれ」
二杯目をおちょこに注いでもらっいすぐさま一口で呑み干す。
そして三杯目も立て続けに呑み干すと、師匠が徳利をわたしの傍に置いてベンチ椅子から立ち上がった。
「司よ、夕食前だがまだ呑むか?そうでであれば真琴に言って追加を頼むぞ」
「す、すみません。今日は呑みたい気分なのでお願いします」
三杯呑んだだけで少し気分が良くなっていたわたしは即答した。
師匠が真琴さんのところに行っている間に徳利のお酒は尽きてしまい、おちょこに残ってる一杯をちびちびと呑みながら空を眺める。
雲はほんの少しだけ茜色を残し、他は暗い夜の様相を呈して来た。
普段はこんなにゆっくり夕暮れ時を楽しむことなんて無かったけれど、陽の沈みゆく光景ってこんな素敵だったのねぇ…
お酒の力で気分が高揚して身体の中もほんのり温かくなり、徐々に冷たくなって来た外の空気が心地良い…
さっきまでの歯痒い感情から抜け出し、風景を楽しめるほど精神的に回復したわたしの元へ、師匠と真琴さんが楽しそうに話しをしながら並んで歩いてくる。
ん~、やっぱり二人はお似合いかも知れない…
真琴さんが両手で持っているお盆の上には徳利が三本とおちょこがー個乗っていた。
「司様がお酒を呑まれるなんて珍しいですね。何かあったのですか?」
「いえいえ、大したことはありませんのでご心配無く…」
大したことは大ありだったけれど、咄嗟にそう答えてしまった。
「そうですか…もし、何かあればいつでも言ってくださいね」
「ありがとうございます、真琴さん。その時は遠慮無く相談させてください」
「はい!喜んで相談乗らせていただきます。では、わたしは御夕食の準備がございますので失礼致します」
真琴さんはそう言って屋敷の方へ戻って行った。
「どれ、呑み直すとするか」
「師匠、ふと思ったんですけど、この時間にお酒を呑んで夜警のお仕事は大丈夫なのですか?」
お酒を楽しもうとする人に水を差すようで悪いと想いながらも、わたしは既に酔っているのか訊いてしまった。
でも師匠が問いかけを気にするでもなく微笑を浮かべ答える。
「フッ、案ずることはない。剣士たる者、酒は呑んでも呑まれるな。だ」
なるほどな…って!?わたしはもうほろ酔いなんですけどーっ!
と想いつつも、今日だけは「剣士たる者」という言葉は捨てて、追加で届いたお酒を呑むわたしなのでした。
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