「奏さんとの試合で己の未熟さを知る事が出来ました。いつの日か貴方を超えらる剣士を目指し日々鍛えますよ」
「うむ、良い心がけだ。ところで、意気揚々と司との試合を望んで乗り込んできた筈だがもういいのか?」
ま~た余計なことを…
「ん~、奏さんという目標ができてしまった以上、司さんには申し訳ないのですが興味が無くなってしまいました」
ガーーーーーン!?
きょ、興味が無くなったと申されましたかぁ樹様ぁ…
わたしはその虚無な言葉を聞いて、両足に力が入らぬほど心中ガッカリなのでした…
「どうした司?何をそんなガッカリした顔をしてるんだ?」
「師匠、わたしのことは暫く放って置いてください」
何故こんなに気持ちがへこむのだろう…
樹様はわたしという人間ではなく、試合に興味が無いと言ったのだとは想うけれど…
「今日はこの辺で帰ります。またいつの日か会いましょう…では」
樹様はに綺麗な微笑を浮かべながら師匠とわたしにそう言うと、くるっと背中を向け呆気なく道場から出て行ってしまった。
「いやはや、世の中にはまだまだ逸材がいるものだ。剣の天才である司もうかうかしていられないなぁ、司?」
「そうですね!素振りをやったらわたしも今日は部屋に戻ります!」
だめだ、少し声を荒げてしまった。
自分の中に今までに感じたことの無い感情が芽生え、上手く抑える事が出来ない…
これはもしかしたら「嫉妬」なの?
この世に生まれてこの方わたしは人に対して「嫉妬」を感じたことが無かった。
何故なら勉強こそ苦手だけれど、家柄や可愛がってくれる優しい家族、自身の容姿や剣の才能に恵まれた環境にあったから…
嫉妬って余り気持ちの良い感情ではないんだ。はうぅ、なんだか自分が惨めに感じてしまう。
「司よ、よく分からんが近寄り難いほど不機嫌だな」
…もう、喋らんで下さい師匠。
わたしは師匠を殺気を込めて睨み、かつてないほどの気合の声を上げる!
「おりゃーーーーーーーーーーーーっ!イチ!ニー!サン!シー!……….」
怒濤のような素振りをして、あっという間に300回を終わらせる。
「お疲れ様でした師匠!わたしは部屋に戻ります!」
「あ、ああ…」
師匠にしては珍しく戸惑いながら返事をしたが、それよりなにより早く部屋に戻り落ち着いて今日のことを考えたい。
わたしは道場から逃げるように立ち去った。
部屋に着くなりバタン!と荒々しくドアを閉め、木製の椅子に膝を抱えながら座り込み樹様のことを想い浮かべる…
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