[滅する!?]
化物カラスが生気を感じさせない黒目で僕を凝視する。
「今からオレの餌になる人間が何を知りたい?」
「この世界には一体何が起こってるんだ?」
「…カッカッカッ、お前は本当に何も知らないのか?」
「…ああ、知らない。だからせめてお前の餌になる前に教えて欲しいんだ」
コイツの餌になってやるつもりは更々ないが、世界に関する情報を少しでも得たい。
「まあいい。世界中でいま起こっているのは、生き残りを賭けた全ての生物達による殺し合いだ」
「はぁっ!?」
何を言っているんだこの化物カラスは…
「言っている事がイマイチわからない。もうちょっと詳しく教えてくれないか?」
「そのまんまなんだかな…もういい、面倒臭くなって来た」
化物カラスが話すのを止めこちらに近づく。
「おっと、待ってくれ!僕を食べるのは簡単だが、生かせばもっと美味いもんを食べさせてやるぞ!」
周りには住宅しか見当たらないが、もう少し歩けばスーパーがある。
コイツをそこまで誘導して食べ物を見せるつもりだったのだが…
「そんなもんはいらん。人間の肉で十分だ」
どうやら交渉の余地は無いらしい。
参ったな。こんな事になるなら親父の猟銃を持ってくれば良かった。
「カァーッ!」
甲高い鳴き声を上げて化物カラスが僕を襲って来る!
そのくちばしから逃れようと咄嗟に真上へ跳んだ!
間一髪で攻撃を避けることに成功し、下に目を向けると化物カラスの姿が小さく見え驚く。
「マジか!?」
正確な高さは分からないが、恐らく地上10m以上の高さに僕はいた。
しかし、この高さから地面に落ちればただでは済まないのでは!?
「ぬぅおーーーっ!」
頭から落下して行く態勢を何とか反転させる。
「ズン!」
覚悟を決め、勢いよく両足から地面に着地した。
なんと、骨折などもせず両足は共に無事なようである。
どうなってんだこの身体!?と思った瞬間!
「カァーッ!」
「バグッ!」
「うあぁっ!?」
考えている隙に化物カラスに左腕を噛まれ捕まってしまう。
「離せ!化物っ!」
叫んでくちばしから腕を抜こうともがくが、凄まじい力で締め付けられ血が滲んで流れ出す。
やばい!腕が千切れそうだ…
「こっのーーーっ!」
僕は残った右腕の拳を握りしめ、化物カラスの眉間をめがけて渾身のパンチを撃ち込む!
「ヴォン!」
軽い爆発音のようなものが聴こえ、化物カラスの顔が消えた!?
殴って粉々になった訳でもなく、肉片が飛び散った訳でもない。
やはり消えたという表現が最も適しているような気がする…
そして、その消えずに残った化物カラスの身体から噴水のように血が噴き出した。
驚いたことに、噛まれて千切れそうだった左腕は逆再生する動画のように復元され、傷一つない元の腕にまで回復したのだった。
[変化に戸惑う]
化物ガラスを無事に倒せたのはいいが、自分の身体の異常な変化に思考が追いつかない。日陰で休みながら整理してみるか…
化物ガラスの死骸から距離を置いて、手頃な木陰に腰を下ろして考える。
まずは身体能力の飛躍的向上。
くちばしによる攻撃を避けようとして真上へ跳躍は、自分のことながら人間の能力を遥かに上回っていた。
そのあとの着地も、あの高さから落ちたのに無傷だったのはどう考えてもおかしい。
次に左腕を噛まれて繰り出したパンチ。
今まで人を殴ったことは無いが、やつの顔を消し飛ばした時に何の手応えも感じなかった。物理的に起こった現象では無いのかも知れない。
最後に千切れかかっていた左腕の修復。
ズタボロだった筈の左腕は何の処置もしていないのに勝手に無傷の状態に戻った。もはや現実とは思えない。
母の言っていた治療が終わった後に身体が軽く感じたと言っていたけど、そんなレベルの変化ではないだろう…
結局、様々な憶測を持ち出して考えてみたが、やはりこれらの変化を裏付ける決定的なことは何も思いつかなかった。
考えても仕方がない。時間も無いしそろそろ行くか…
「そこの君、どこに行く気だい?」
「おわっ!?」
突如として木の後ろから人の気配を感じ若い男の声がして驚いた。
身体を動かし木の裏を覗くが人が居ない…
「こっちこっち。こっちを向いてくれたまえ」
今度は逆方向から声が聴こえ、サッと振り向いたがやはり居ない…
「こっちこっち!実はこっちだった」
また違う場所から…木の上か?
しかし、バカにされているようでなんか嫌だな…
「あの~、疲れているので話しがあるなら姿を現してもらえませんか?」
一応、木の上を向いて言ってみた。
「…若いのに付き合いが悪いなぁ。もうちょっと遊び心が欲しいとことだが仕方ないっ!目の前に居るよ~」
言われて車道側を見ると、髪が白と黒の入り混じった色をしている男が立っていた。
服装は白いパーカーの下に黒いTシャツ、ブラックジーンズを履き、顔にはサングラスを着けている。
良かった。やっと人間に会えた。
でも念のため…
「あなたは人間ですか?」
男が指でサングラスをちょっと下げ、上目遣いで僕を眺める。
「ハハ。僕が化け物にでも見えるのかい?心配しなくても間違いなく人間だよ。なんなら裸になって証明しようか?」
やばい人なのか!?
「いや、裸は良いです。僕に何か用でもありますか?無ければ…」
「勿論あるよ~。だから声をかけた。君をうちのチームにスカウトしたい!」
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