師匠の剣の流派は[真奏流](しんかなでりゅう)。
元々はわたしの実の父である沖田総司と同じ[天然理心流]だっけれど、20代半ばに自己流を研鑽して真奏流を生み出したらしい。
名称の由来が気になり、なぜ頭に「真」と入れたのか訊いてみたところ、「なんとなく」という雑な返答があり、訊かなきゃ良かったと思ったりしたものだ。
唯一無二の弟子であるこのわたしも、当然にして真奏流なのだけど、今後の奏十四郎の素行次第で流派を変えようかと考えている。否、やはりいつか変えてやる。
互いの実力が高い水準で僅差の場合、余裕が無くなり寸止めが難しく、木刀で試合を行えば大怪我してしまうかも知れない。
だから、今回の稽古は互いが竹刀を手に持ち中央に向き合って構えた。ただし、防具は着けていない。
「弟子よ。いつでもかかって来なさい」
師匠の試合をする際の真剣な顔は、普段のだらしない姿と比べ、到底同一人物だとは思えないほど豹変する。
このわたしでもドキッとするくらいだ。因みに、この「ドキッ」は恋心とは程遠いということだけは付け加えておこう。
さて、どう攻めるかな…
「バシッ!」
「いたっ!?」
隙だらけの頭のてっぺんに、目にも止まらぬ速さの一撃をもらってしまった。
「司。邪念が入って集中していないのが見え見えだ。集中しろ」
そ、そうですね。いかんいかん、集中しよう。
「はいっ!申し訳ありません!今一度お願いしますっ!」
「すっ!」と同時に素早い突きを繰り出す!
その突きは読まれていたのかサッと避けられ、上から師匠の竹刀が襲いかかって来た!?
わたしはそれを前転して避け、中腰の状態で足下を狙って薙ぎ払う!
しかし、それをヒョイっと軽く跳躍してかわされ、また上方向からの攻撃が来るっ!?
「バシッン!」
竹刀を横にして両手で支えなんとかその一撃を受けためた。
「ほう、これを受け止めるか。半年前より随分と成長しているようだな」
「お、お褒めに預かり光栄です…」
師匠が話しをしつつも、頭上付近で受け止めた竹刀をグググッと押し込んでくる。
「スザッ!」
このバカ力を支えるのは無理っ!と判断し、後ろに中腰のまま飛んでその場を回避した。
サッと体勢を立て直し上段の構えをとる。
すると師匠も合わせるように上段の構えをとった。
打ち下ろしのスピード勝負をしようというという無言の意思表示だろう…望むところだ。
互いが摺り足でジリジリと間合いを詰めていく。
師匠の竹刀が微かに揺らいで見えたその刹那!
「やぁっ!」「たぁっ!」
「バシッ!」
先に動き頭を打ち抜かんとする一振りが到達するより速く、師匠の竹刀がわたしの頭を打ち抜いた。
「いたたたた…」
わたしは声を上げて頭を押さえ、その場にガクッと片膝をついた。
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