沖田総司の忘れ形見は最高の恋がしたい! [千代古齢糖]

沖田総司の忘れ形見は最高の恋がしたい!

今朝の死にそうになった一件は忘れない。絶対に念押ししておかなければ。

「伊達さん、帰りはくれぐれも普通の速さでお願いしますね!」

「へへへ、わかってますって~お嬢様!じゃあ、しっかり掴まっててくださいよ~!」

 本当に分かってくれているの?この猪突さんは…
 わたしの心配とは裏腹に、伊達さんはいつもの速さで屋敷まで帰ってくれた。と言ってもやっぱり速いような気もするけど。

「お帰りなさいませ~司様~!」

 屋敷に着つき人力車を降りると、真琴さんが笑顔で手を振りながら出迎えてくれる。
 この笑顔にいつも癒されるんだよなぁ…
 兄妹のいないわたしにとって、真琴さんは使用人であると同時に姉のような存在でもあった。

「今日は旦那様が珍しい物をお持ち帰りなってます。お茶を入れますのでゆっくりなさってください」

「ありがとうございます真琴さん。じゃあお茶してから道場に行きますので」

 それから一度部屋に戻り、鞄を所定の場所に置いてから居間へ向かう。
 わたしの部屋から廊下を通り階段を降ると、1階の廊下を挟んで正面に居間がある。テーブルの上には一枚の白い皿とお茶のセットが置いてあった。

 程なく真琴さんが入って来てお茶を入れてくれる。この部屋にはわたしと真琴さんの二人だけだった。
 
「真琴さん、お祖父様は帰ってからどこかに行かれたのでしょうか?」

「あっ、そうです。これを司様にとおっしゃってまた直ぐに屋敷を出て行かれました」

 お祖父様とお茶しながら楽しい会話を期待していたのに…ちょっと残念。

「だったら真琴さん、一緒にお茶しましょうよ」

「いえいえ、とんでも無いです。使用人が一緒になってお茶をすることなどできません」

「そんなことわたしは全然気にしませんから。道場にも行かないとならないし、ほんの少しだけでも一緒に、ね」

「ん~…わかりました。少しだけならお付き合いさせていただきます」

「そう来なくっちゃ!ささ、座って座って」

 真琴さんはもう一つの湯呑みにお茶を注ぎ、かなり遠慮がちに椅子に座ってくれた。

「旦那様が持ち帰られのは皿の上に乗っていてる物です。なんでも[千代古齢糖]と云う物らしいですよ」

 [千代古齢糖]。何だろう、初めて聞く名前だ。見た目は黒いし硬そう…黒糖に近い食べ物なのだろうか?
 考えても仕方がないから取り敢えず食べてみよ。
 皿の上に盛ってあるうちの一つを手で摘み口に入れる。

 ん!?想像通りに硬い。舐めて食べる物なのかな…あっ!溶けて来た。黒糖と違って甘すぎず、ほんのりとした苦味がする…けど美味しい。

「うん、初めてだけどわたしは好きかも。真琴さんも食べてみて」

 そう勧めると、真琴さんは遠慮しながら[千代古齢糖]を口に入れた。

「あっ!美味しいです。これは風味も黒糖より良い感じですね」

 短い時間だったけれど、こうして会話をしながら午後の楽しいひと時を過ごしたのです。

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