沖田総司の忘れ形見は最高の恋がしたい! [花ケ崎女学校]

沖田総司の忘れ形見は最高の恋がしたい!

「ドドドドドドドド!」

「きゃぁぁぁぁぁ!」

 前略、お祖父様。伊達さんの人力車をひくスピードが半端なくて泣きそです。このままだと天国に行ってしまうかも知れません。

 必死に人力車に掴まっているけれど、気を抜いたら一瞬で降り落とされそう。
 馬ですかっ!?伊達さんはーっ!

「キキキキーーーッ!」

「へへへ、着きましたよ!お嬢様!」

 あれだけ走ったのに伊達さん平然と笑ってる。

「ち、遅刻しなかったのは良いですけど…と、飛ばし過ぎですよ~伊達さん」

「へへへ、お嬢様、遅刻しなかっただけ儲けもんだと思ってもらえれば」

「そ、それは感謝してますよ~」

「じゃあ、学校が終わる頃にはまたお迎えに上がりますので!

「お、お願いします」

「せいっ!」

 伊達さんは来た時と同じくらいの尋常じゃない速さで帰って行った。
 
 わたしは目が回りふらふらになりながら花ヶ崎女学校の門をくぐる。

「おはよう司!今日も元気そうで何より!」

 どこをどう見て元気そうに見えたのだろうか…
 親友の穂波千歳(ほなみちとせ)がそれこそ元気な声で挨拶して来た。
 彼女の風貌は、肩に少しだけ掛かるくらいの癖髪をしていて、顔はまあまあ可愛い方だと思う。

「お、おはよう。千歳」

 何とか挨拶を返したけれど気分の悪さがまだ抜けない。

「ジリリリリリリ!」

 焦らすように学校のチャイムが鳴り響き、わたしと千歳は急いで教室へ向かった。

 わたしの学級には30人ほどの女学生が在籍しており、席は埋まっていてわたしと千歳が最後っだったみたい。
 これだけ若い女性が集まれば当然ワイワイガヤガヤと話し声が騒がしい。

 二人が並んで使用する木製で長方形の机があり、そこに同じく木製の椅子が二つある。わたしと千歳は隣同士の席に座った。

 そう待たずして担任の女教師が堂々とした感じで教室へ入って来る。

 先生の名は神楽坂美梨(かぐらざかみり)。年齢は26歳。なかなかの美人なのだけれど、男勝りな性格が災いしているのか未だに未婚。風の噂では結婚をかなり焦っていると聞いている。

「はい、みなさん静かにして!点呼を取ります」

 神楽坂先生が騒ぐ女学生達にそう呼びかけると、学級は瞬時にシ~ンと静まり返り、点呼が順次行われ全員が揃っているのを確認して授業が始まった。
 
「はい、朝は予定通り算術を勉強します。みなさん教科書を出してください」
 
 女学生達が教科書と洋紙のノートを机に広げる。この学校ではノートに書く筆記用具は鉛筆が推奨されていたけど、中には万年筆を使う人も居た。

 それより何より、わたしはこの算術の勉強が苦手で苦痛です。

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