[梅小路悟(うめこうじさとる)様]
「司様~!梅小路様がいらっしゃいました~」
使用人の安達真琴(あだちまこと)さんが梅小路悟(うめこうじさとる)様を連れて来た。
年齢22歳の貴族であるこのお方の見た目は気品があり、容姿も淡麗と言って差し支えないのだけれど、剣の腕は無いし、天才的にお頭も弱いとわたしは想っている。
一年前に交際を申し込まれ、当然腕試しの試合を行った結果、数秒でわたしに負けたにも関わらず「貴族の自分が振られるはずが無い!」と何度交際を断っても懲りずに言い寄って来る男らしく無いお方。
真琴さんには「梅小路様は屋敷に入れないで門前払いするようにしてください」と言ってあるのだけれど、このお方の押しに負けていつも連れ来てしまう。
まあ、相手が貴族だけに門前払いも難しいかな…
「司さん!今日こそあなたに勝ってご覧に入れましょう!私と尋常にいざ勝負!」
このお方はいつも最初の威勢だけはいい。ある意味では強いのかも知れない。
「ちゃんと修行をして少しでも強くなりましたか?」
「フフフ、もちろんだよ!君に敗れてからの一月間。毎日欠かさず100回の素振りをしたからね。一月前の私と同じに考え無い方がいい」
…毎日たったの素振り100回で強くなれるのなら、剣の道などいとも容易く歩んで行けるだろう。でもこのお方にしたら頑張った方かな。
「わかりました。ではさっさと始めましょう」
道場の中央にわたしと梅小路様が木刀を持って向き合う。
梅小路様の考えはまだまだ甘いけど、一応大真面目でぶつかって来るようなので、こちらも真剣に闘わなければ失礼というもの。
「やぁーっ!」
梅小路様が上段の構えから木刀を振り下ろす。
「カッ!」
「コーン!」
振り下ろされた木刀を横に弾き、梅小路様の頭のてっぺんに一撃。
「い、いだいーーーっ!」
悲鳴を上げ、叩かれた頭を押さえて床を転げ回る。
わたしは試合を申し込んで来た相手に情けはかけない。痛い目に合う覚悟があっての申し込みである筈だから。覚悟が無ければもっといじめてあげるけど…
「もう、これで最後にしてください。梅小路様」
「フフフ、流石は私の将来の妻!修行を重ねた私を簡単に負かしてしまうとは恐れ行ったよ」
頭を押さえながら立ち上がった梅小路様が続ける。
「今度こそあなたに勝てる強さを身につけて来る!会えない時間は寂しいが、また来月お目にかかろう!では!」
そう言い残して足早に道場から出て行った。
もう遊ばれているような感じしかしない。
本当にあれで貴族なのか?と疑いたくなるけど、やっぱり貴族の人なんだよなぁ…
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