[三人の女子会!?]
おつまみは、いかさきやピスタチオ、なぜかアーモンドフィッシュというお菓子系もあり、料理は唐揚げとタコのカルパッチョ、牛肉のしぐれ煮が並べられた。
「どうよ~、これだけあれば十分でしょ。タコのカルパッチョは『紗理っちのためだったら』って料理長のナカさんがわざわざ作ってくれたんだからねぇ」
えっ!?わたしのために料理長が!?
「リンさん、わたし明日のお昼にでも料理長にお礼を言います!」
「そうしてくれるとありがたいわぁ。ナカさんもきっと喜ぶから」
「ナカさんは熱くて情け深かいもんねぇ。ジンさんのことで落ち込んだ時に、何度ナカさんの料理で心を救われたことか…あ、さっきの話の続きなんだけど…」
「ああっ!もう今夜はジンの話は無しよ!どうせわたしが来るまでジンの話をしてたんでしょ」
リンさん、密かに応援してます!
「まぁ、そうだけれど。…仕方が無いわねぇ。紗理っち、この話の続きはまたの機会にするわ」
「そ、そうですね。残念ですがまたの機会に聞かせてください」
ふぅ、助かったぁ。
「でも相変わらず呑兵衛が多いはね~やしあか動物園の面子は、わたしがここに向かおうとした時点で、中に半分以上残ってたけれど、外にはもっと多く残っていたわ」
その中には久慈さんもたぶんいるんだろうなぁ…
「それを言ったらわたしたちも同類の呑兵衛でしょ。さぁ続けて呑むわよ!」
「フフフ、そうねじゃあ紗理っちもほれ!」
呑み干したばかりのグラスにリンさんが赤ワインを注いでくれた。
「紗理っち。ようこそやしあか動物園へ!」
「ようこそ、紗理っち~」
「リンさん、コウさん、ありがとうございます!」
「「「かんぱーい!」」」
「チーン!」
グラスを合わせ三人同時にワインを呑み干す。何だか一昔前の連ドラのワンシーンみたいでなんだか少し照れる。
それから三人であやかし動物園のあれやこれやの話をして盛り上がった。
お腹がいっぱいだったはずのわたしも、雰囲気と酔った勢いでおつまみと料理をどんどん口に入れる。
中でも料理長が作ってくれたタコのカルパッチョは最高で、気付けば大皿に盛ってあったほとんどをわたしが食べてしまっていた。
リンさんは飼育員のリーダーという立場上、中間管理職としてのストレスが大きかったらしく、時折泣いてしまう場面もあったれど、コウさんが慰めて元気を取り戻し笑顔になっていた。
楽しそうに話す二人を見ていて、この楽しい時間がずっと続けば良いのになぁと想う。
時間が経ち、お酒による酔いと、一日の疲れが出たのか、瞼が重くなった。心地よい眠気がふわ~っとやって来て、わたしの意識は知らない間に途切れていた。
[ホウキで飛ぶ!]
朝日の光を身体で感じたわたしはゆっくり瞼を開けて目を覚ます。
「うっ、ううぅ」
今まで経験したことのない酷い頭痛が頭を掻きわしていた。
やばい、完全に二日酔いだ…
身体をむくりと起こして気付く、どうやらソファーの上で毛布を被って寝ていたらしい。
自分でソファーに移動した記憶は無い。たぶんダイニングキッチンで酔い潰れたわたしをリンさんかコウさんのどちらか、もしくは二人でこの部屋のソファーまで運んでくれたのだろう。
部屋を見回すと女性らしく可愛い雰囲気で、何のキャラクターか分からないぬいぐるみがいくつも並べられていた。
コウさんてこんな趣味もあるんだ…
うっ!?鼻を突き刺すようなお酒の匂いがする。と同時にコウさんの言っていた[ゼラニウム]の香りがして微妙な感じ。
ベッドの上では毛布にくるまったコウさんが静かに寝ていた。
リンさんの姿が見えない。昨晩のうちに自分の部屋に戻ったのだろうか?
んっ!?んんん!?これは間違いであって欲しい!部屋の壁にある四角い掛時計の針が七時三十分を指し示している!
まずい!遅刻するーーーっ!
即座にコウさんの身体を両手で揺らして起こしにかかった。
「んんん…」
微かなうめき声をコウさんが漏らすがなかなか起きない。
「コウさん!起きてください!もう七時半を回っちゃってます!」
「んっ!?七時半!?」
ガバッ!と毛布をはねのけて起きたコウさんは、服はおろか下着一枚身に着けていなかった。
うぉっ!この人、寝る時は裸なんだ!?そして女のわたしでも惚れ惚れスタイル…おっと見惚れている場合じゃない!
朝食を摂る時間など有る筈もなく、二人ともバタバタと準備を済ませてやあか寮を飛び出した。
走って林の中に入ると、一本の木に竹製のホウキが立て掛けてあった。これを利用しない手はない!掃除用のホウキだろうけれど、これを暫く拝借して…
わたしはホウキを手にしてサッとまたがり魔力を使って宙に浮いた。
すぐさま低空飛行でスイーッと進み、前を走るコウさんに追いつく。
「コウさん!後ろに乗ってください!」
「えっ!?それって空を飛ぶのよね?大丈夫なのかしら!?」
「大丈夫です!時間がありません早くっ!」
「わ、わかったわ!」
時間の無い焦りから急かしてしまったけど、コウさんはすんなりホウキに乗ってくれた。
「行きますよーっ!」
林の木が下に見える位置までヒュウッと上昇する。目の前には結界が見えた。
「やしあかあやかしあやしいな!」
よし結界は消えた!このまま事務所まで一直線にひとっ飛び!
ビュオッ!と一気に加速する。
「ひぇーっ!」
コウさんが悲鳴を上げて驚き、わたしの腰にしがみつく腕に力が入った。
「ぎゃーっ!?」
凄まじい力で腰が折れそうになり、今度はわたしが痛みで悲鳴を上げる。
「コウさん!力を緩めてください!死んじゃいます!」
「ご、ごめん。つい…」
腕の力が緩められ痛みが遠のく頃には、事務所前へ無事に着地することが出来た。
[河童の媚薬]
「あなたって普通の女の子に見えるのに、本当に魔女なのねぇ。ありがとう助かったわぁ」
「いえ、それより急がないと!」
動物園側の入り口から急いで事務所の中へ入り、コウさんの次にタイムカードを押す。
七時四十九分の刻印が打たれた。
ギリギリセーフ!なんとか間に合った~。でもこんなのばかりだな、わたし…
ロッカールームで作業服に着替えデスクに行くと、久慈さんは既に仕事を始めていた。
「久慈さん、おはようございます!今朝も早かったんですね」
「おはよう紗理っち。いや、実は僕もさっき来たばかりさ。昨夜はモン爺さんとトメさんに随分呑まされて大変だったよ」
そう言う割にはお酒臭くも無く、二日酔いしているようにも見えない…
「わたしは思いっきり二日酔いで頭がガンガンしてます」
「それなら良い物がある。ちょっと待てて」
久慈さんが引き出しを開けて何かを取り出した。
「はい、これ」
直径1cmくらいで茶色の小さな粒を差し出される。
「………….」
初めて見る怪しそうな茶色の粒。なんだろうこれ?
わたしが黙って受け取ると。
「これは[河童の妙薬]と云って、二日酔いに抜群な効果を発揮してくれるんだ。これを飲めばすぐに良くなるはず」
「そ、そうなんですね。名称からして飲むのが少し怖いんですけど…」
「大丈夫!人間の僕が飲んで実証済みだ。絶対効くから飲んでみて」
「わかりました。信じて飲んでみます」
事務室の隣にある給湯室で、コップに水を入れ覚悟を決めてゴクンと飲み込む。
「にがいぃ!」
粒が舌にほんの僅か触れただけでもの凄い苦味を感じた。良薬口に苦しって聞くしなぁ…
口の中に苦味が残ったまま事務室に戻ると、園長とリンさんの姿があり、朝礼が始まろうとしていた。
「みなさんおはようございます」
「「「「おはようございます!」」」」
「昨晩は大いに楽しんでいただけたと思います。また次の機会を作るために、本日も頑張っていきましょう」
「「「「はいっ!」」」」
今朝の朝礼はあっさりと終わり、リンさんは何も話さず園長と園長室に入って行った。
「紗理っち、身体の具合の方はどうだい?あの薬はすぐに効果が出るから」
久慈さんに言われて、激しい頭痛が無くなった上に身体の怠さも消えたことに気付く。
「驚きです!全く頭痛がしなくなりました。しかも身体が軽いです。[河童の妙薬]って二日酔いの特効薬なんですか?」
「うん、まあね…いや、ごめん。二日酔いに効くという事は知ってるけど、本当は詳しく知らないんだ。でも頭痛が治って良かった良かったハハハ」
「そ、そうなんですね…」
ガーン!良く知られていない薬を飲んでしまった。副作用と心配ないのだろうか?まぁ体調は回復したから良しとしておこう。
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