[つがいの鎌鼬]
リスとプレーリードッグを見たあとイタチの小屋を拝見。
ニホンイタチ、オコジョ、フェレット、イイズナなどが居てどれも普通に可愛い。 ん~この中ではイイズナが一番可愛いかなぁ…って。
「あの、久慈さん。さっきからこっちをめちゃくちゃ睨んでる小さなイタチが居るんですけど」
小さい動物とはいえ、まだ何もしてないのに睨みつけられるのはちょっと怖い。
「あれは3ヶ月前に生まれたばかりの鎌鼬(かまいたち)の子供ガガンだよ。まだ言葉が通じ無いし警戒心が強いんだ。あれ?親の鎌鼬の姿が見えないな」
「え!?妖怪って繁殖するんですか?」
「うん、するよ。園長に訊いた話しでは、妖怪の繁殖パターンは色々あるらしい。鎌鼬の場合はつがいが出来ると子供を作るんだ」
「ふ〜ん、妖怪も家族を持つんだぁ。でも久慈さんの言う通り、親の鎌鼬が見当たらないですね」
二人で小屋の中を隅から隅まで探すもガガンの親が見つからない。
「ひゃっ!?」
不意にわたしの右足が何かに突かれ、思わず声を上げてしまった。 足元を見ると二匹のイタチが立っていて片方が話しかけて来る。
「もしかしてオレ達夫婦を探してたのかな?」
わたしがキョトンとしていると、久慈さんが応対してくれた。
「やあ、ダダンさん。どこかに出掛けてたみたいですね」
「息子のガガンに昆虫を与えてみようと思ってね。妻のザザンと園内を探し回ってたんだよ」
「カブトムシ系の昆虫を探したけど収穫は無しよ。まだ時期的早かったみたいだわ」
ダダンさんの隣にいるザザンさんはとても残念そうだった。
鎌鼬のつがいはパッと見ると普通のイタチと変わらなかったけれど、尻尾が鋭利な鎌のようになっている。
「あっ!わたし新人飼育員の黒川紗理亞って言います。もしカブトムシを見掛けたら、ガガン君のために持って来ますね!」
「お、そうして貰えると助かるな。よろしく頼むよ新人飼育員さん」
わたしの申し出にダダンさんは喜んでくれたようだ。
「あなた、わたしは先に小屋に入るわよ」
ザザンさんは小屋の中にいるガガン君が潤んだ眼でこちらを見ているのに気づき、そう言って小屋へ向かった。
残ったダダンさんに久慈さんが訊く。
「ダダンさん、ガガン君はまだ言葉を話せないんですよね?」
「そうだな。もう少ししたら片言で話せるようになるかも知れないが、今は少しずつ教えている段階だよ」
どうやら妖怪も人間と同じで、話せるようになるには学習が必要みたいだ。
「じゃあ、そろそろオレも小屋に戻るよ」
ダダンさんは小屋の中へ走って行った。
[妖怪の恋愛事情]
イタチ科の小屋をあとにしてモモンガの居る小屋へ移動する。
モモンガの居る場所の隣には、金網を挟んで数匹のムササビが入って居た。
今朝の通勤途中で図鑑を広げた時に、同じリス科の似て非なるムササビとモモンガの説明文を読んだばかりで、より興味を持って二種の動物を比較しながら観察できた。
確かに雰囲気は似ているけれど、まず身体の大きさが全然違う。
例えるならムササビが座布団くらい、モモンガはハンカチほどの大きさに見える。
顔もモモンガの方が小さい割に眼が大きくキュートだ。
「キュン度」で言うと、身体が小さく顔も愛らしいモモンガの大勝利ではないだろうか。
そんな風に考えながら観ていると、モモンガの一匹がムササビとの境界線の金網に近づいた。 ムササビ側からもモモンガ方向の金網に一匹駆け寄る。
それを見ていた久慈さんが言う。
「あ、また始まった…あの二匹は恋人同士なんだよムササビの方が野衾(のぶすま)のサビさん、モモンガの方が飛倉(とびくら)のモモさんだ」
「ほ、ほう。それはそれは」
妖怪による恋愛…ほんの少し妬けてしまった。自分で言うのも何だけど、わたしは顔が綺麗で正確も良い方だと想っている。それなのに生まれてから22年もの間、彼氏が出来た事など一度も無い。ま、まあ魔女だから仕方がないか!?と言い訳しておこう。
取り敢えず二人(二匹)のやり取りに耳を傾けてみた。
「おはようサビ~!今朝も元気?」
「おはようモモ~!今朝も元気だよ!」
これだけ聞いただけで、二匹の周りにピンク色のハートマークが見えるような気がする。
まるで恋愛経験の浅い中学生や高校生くらいの男女が、初恋にのめり込むとこんな感じになるのでは!?という印象を受けた。
ま、まあわたしは恋愛経験が無いから、本やネットで収集した情報からの意見だけど。
「サビ、朝一番で訊くのも何だけれど、今日の仕事のあとはどこへ連れて行ってくれるの?」
「モモ、君の質問なら朝一でも全然構わないさ!でも今夜の歓迎会の事は聞いてないのかい?」
「歓迎会?誰の?」
「聞いた話しでは、昨日動物園に入ったばかりの新人飼育員の歓迎会らしい」
「あなたはその新人飼育員に会ったの?」
「いや、まだ会ったことは無いよ」
「会った事も無いのであれば、出席しなくても良いんじゃないかしら?」
「モモ、新人飼育員の歓迎会なんて滅多にあるもんじゃない。一緒に出席しようよ」
「サビは二人きりの夜を楽しむより、顔も知らない人の歓迎会の方が良いと言うのね」
「いや、そういう訳では…」
立場上、会話を聞いていられなくなったわたしは挨拶をすることにした。
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