やしあか動物園の妖しい日常 16~17話

やしあか動物園の妖しい日常

[リベンジ成功!]


「料理長は鳴釜(なりかま)のナカさんという妖怪なんだ。人間社会の三つ星レストランで腕を磨いて、あんなに美味しい料理を作れるようになったらしいよ」


 三つ星レストランの何店かは両親に連れて行ってもらい、食事をしたことがあったのでレベルの高さは知っていた。


「なら、あの味は納得出来ます。ナカさんて凄い妖怪なんですね。でも、三つ星レストラン級の料理をあの価格で味わえるやしあか食堂って、明らかにコスパが良すぎませんか?」


「うん、だから平日の昼時なのに食堂内の人が多かったでしょ。世間では知る人ぞ知る穴場の人気飲食店になってるんだ。動物園の来客数アップにも繋がっているしね」


「凄く分かります!わたしも家が近ければ、動物園に足を運ぶ回数がきっと増えていたと思うので」


 わたしはこの時すでに決めていた。出勤した日の昼食は、必ずやしあか食堂で食べようと。
 担当の家畜系動物コーナーへ着くと、久慈さんが来ていたお客さんを相手に、慣れた感じで動物の説明などを始めた。
 詳しく説明する久慈さんの後ろでわたしは集中して聴きながらメモを取る。

 よし!まずは担当の動物たちを良く知って、お客さんに上手く説明できるようににしよう!そう心に誓ったのだった。


 そのあとは事務所に戻り、動物の勉強になるからと、やしあか動物園ホームページの編集や資料作成の仕方を教わった。
 あっという間に閉園の時間となり、担当動物のところへ行って、この日最後の給餌と健康チェックをする。


「久慈さん、帰る前にさとりの兎のサトリさんに会いたいんですけど良いですか?」


 今朝は思い掛けず心を読まれ動揺してしまい、対処出来ずにその場から逃げ出してしまった。今日のうちにサトリさんを克服したいという想いがある。

「…それは構わないけど大丈夫?」


「大丈夫です!じゃあ行きましょう!」


 わたしにとってはリベンジ?でもあり、少し気持ちも高ぶって来た。
 兎小屋を覗いてサトリさんを探すと、両手でニンジンを持って食べている姿を見つけた。


「サトリさ~ん、今朝は逃げ出してすみませんでした~」


 呼び掛けには反応したけれど、返事は無く、こちらをジッと睨んでいる。恐らく心を読もうといているのだろう。


 今朝のようにサッとものを言わないサトリさん。徐々に表情が険しくなって行く。やった!これは成功したかも…


 突然ハッとした表情をして、サトリさんがようやく口を開く。


「君の心が読めないんだけど何かしたのかい?」


 リベンジ成功!わたしは魔力を使って魔法障壁を作り、サトリさんの能力が届くか否か試していたのだ。

[スイスの魔女]

「サトリさんから心を読まれないように、ちょっとした工夫をさせて貰いました~」


 軽く意地悪な感じで言うと、サトリさんが悔しそうな顔をする。


「人間にそんなことが出来るなんて…君、何者なの?」


 フフフ、今度は驚いてくれている。今朝はこっちがしてやられたから、勿体ぶってタネは明かさないのだ。


「彼女は魔女だよ」


 !?久慈さんそれは無いでしょ! 横からあっさりとバラされてしまった。わたしの秘密を黙っているというささやかな優越感だったのに…


「魔女か…ん!?魔女って日本にも居るの!?」


 最もな質問ですサトリさん。わたしは日本でいうところの巫女でも祈祷師でもなく、代々母型の家系から血を受け継いでいる魔女だ。

 祖母の母、つまりわたしにとっての曾祖母がスイス人の魔女だったらしい。


「わたしはスイスの魔女の曾孫に当たる魔女なんですよ」


「ふ~ん、そうなんだ。ま、ボクにはどうでも良いことだけどね」


 だったら最初から訊かないで欲しかった…


「さてと、サトリさんへの用事も済んだようだし、日も暮れて来たからそろそろ事務所に帰ろう」


 事務所に帰り着き、ロッカールームで私服に着替えた。
 タイムカードの傍で久慈さんが待ってくれている。

 そこへ園長がやってきて話し掛けられた。


「黒川さんお疲れ様。やしあか動物園での仕事はどうでしたか?」


「驚きの連続でしたけど、魔法を使えばなんとかやっていけそうです」


「ふむ、そうですか。それは良かった。あ、そうそう、聞いてるかも知れませんが、明日は仕事あとにやしあか食堂で君の歓迎会を行います。主役なので必ず出席してくださいね」


「はい!もちろん出席させていただきます!」


 最近の人間社会では上司や先輩からの誘いを簡単に断るらしいけれど、流石に自分の歓迎会を断る人はいないでしょ。たぶん。


「よろしい。では久慈君もよろしくお願いしますね。お疲れ様でした」


「お疲れ様でした」


 久慈さんが挨拶を返すと、園長は静かに事務室を出て行った。
 気になったのでタイムカードを押して訊く。


「久慈さんは車で通勤してるんですか?」


「そうだよ。家との距離は車で30分掛からないくらいだ。黒川さんは電車で通勤するんだっけ?」


「はい。電車が一番手頃かなと思って」


「良かったら駅まで送ってあげようか?」


「ありがとうございます。でも甘えちゃうのが癖になるといけないので自分の足で帰ります。お疲れ様でした!」


「そうか、いい心掛けだねぇ。じゃお疲れ様」


 こうして久慈さんと挨拶を交わし、動物園での長い一日が終わったのだった。

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