「あっちはロバの柵ね。全部普通の動物で妖怪は残念ながら居ないんだ」
ん!?久慈さんは妖怪の存在に慣れて麻痺しているのだろうか?
「居ないのが普通だと思うんですけど」
「ハハハ、黒川さんもこの動物園に慣れてしまえば、きっと他の動物園が物足りなくなると思うよ」
先ではそうなる可能性があるかもだけれど、少なくとも今はそう思えない。
まあ確かに人間の慣れって怖いけどね。
「ここまで観た感じだとみんな体調には問題無さそうだね。君も毎日観察していれば分かって来ると思うけど、調子の悪そうな動物が居たら獣医さんに知らせるんだよ」
「やしあか動物園の獣医って、やっぱり妖怪なんですよね?」
「ああ、もちろんそうだよ。後で紹介するけど獣医は二人いる。優秀な妖怪が人間社会でしっかり勉強して、ちやんとした資格も持ってるんだ」
「えっ!?確か獣医になるには獣医系の6年制大学行かなきゃ駄目ですよね?」
「う~ん、僕は良く知らないけど、めちゃくちゃ苦労したって話しは訊いたよ」
もし機会があれば、その獣医さんに直接訊いてみよう。
「まだ時間があるから小動物のコーナーに行ってみようか?」
「是非お願いします!」
偏見かも知れないけれど、大抵の女子が小動物は大好きだろう。
小動物のコーナーは道を挟んで直ぐ隣にあり、特に移動時間は掛からなかった。
「まずは兎だね。兎も数種いるからそれぞれの特徴とか覚えておくと良いよ。因みにこっちをジッと見てるのが[さとりの兎]のサトリさんね」
久慈さんが指差すサトリさんを見て会釈をすると。
「君、ボクのことを余り可愛くない兎だなと思ったろ」
兎姿のサトリさんが突然話し掛けて来た。しかもわたしが一瞬思った事を言い当てて…
「そ、そんなこと思ってもいませんよ~」
「今、この兎怖っと思ったろ。ボクに嘘はつけないよ。なんせ人の心が読めるんだから」
なに!?テレパシーみたいな能力持ってるの!?やっぱり怖いよサトリさん。
「す、すみません!また思っちゃいました!出直して来ます!」
緊急脱出!混乱して色々考える前にダッシュでその場を離れた。
ベンチに座り頭を整理して落ち着こうとしているところへ、久慈さんが走ってやって来る。
「いやぁ~、ごめんごめん!サトリさんの能力を説明しとけば良かったんだけど、黒川さんのリアクションが見たくてつい黙ってたんだ」
笑顔でそんな風に言われると何だか怒りが沸き上がり、久慈さんをキッと睨みつけた。
「そんなに怒らないでよぉ。本当に悪かったとは思ってるし、これでさっきの件はチャラにしてあげるから」
うっ!それを言われると…
「しょ、しょうがないなぁ。許してあげますけど、悪戯はもう勘弁してくださいね」
わたしがそう言うと、久慈さんは頭を掻きながら笑っていた。
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