やしあか動物園の妖しい日常 5~7話

一代!自由研究やしあか動物園の妖しい日常

[家畜系の担当]


 何にしても自分の情報だけ筒抜けなのは気分が悪いな。


「失礼かも知れないですが、久慈さんも何かしらの事情持ちの人なんですか?わたしは「君が魔女だから採用した」って園長に言われたんですよね」


「僕が採用された理由ね…まぁ、簡単に言っちゃうと、僕の身体の中に酒呑童子という妖怪が封印されているからだよ」


 !?、やっぱりまた驚かされてしまった。けど、続けて質問する。


「妖怪が封印されているってどういう状態ですか?」


「身体の中で妖怪を飼っているイメージかな。たまに僕の意識下で酒呑童子が話し掛けて来たりもする。迷惑な話しだけれど、お陰様で普通の人間の何倍もの力が出せるんだ」


 わたしの世界観が良い意味でも悪い意味でも壊れて行く。
 この動物園にいると、魔女という存在が大した事では無いような気がして来る。
 色々な話をしながら歩いていると、いつの間にか目的地の家畜系動物コーナーへ着いた。
 パッと目に入ったのは、馬、牛、羊、山羊、ロバなどなど。 流石は動物園、動物の種類が豊富だ。


「黒川さんには暫くのあいだ、家畜系の動物が多いこのコーナーを担当してもらう。ここに居るのは比較的安全な動物ばかりだから、安心して仕事が出来ると思うよ」


 わたしは久慈さんの話を上の空で聞いていた。

 なぜなら、牛の中の一頭が人間の女性の顔をしていたからだ。
 震えながらその牛を指差して訊く。


「久慈さん久慈さん。そこの牛って妖怪なんですよね?」


「ああ、彼女は牛女(うしおんな)のトクさんだ。仲良くしてくれよ」


 妖怪にも名前があるのか!?勇気を出して話し掛けてみよう!


「ト、トクさん!今日からこちらの担当になりました黒川紗理亜と言います!ご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願いします!」


 牛女のトクさんがキッとこちらを睨みつける。


「まったく、朝からうるさい女だね。動物園の動物はデリケートなんだ。大きい声は控えなよ」


「す、すみません。以後、気を付けます」


 恐ろしい形相でトクさんに初っ端から怒られてしまった。
 社会人一年生でしかも出勤初日、新人なんて怒られてなんぼだろう。要は同じ失敗を繰り返さなければ良い話だ!などと自分で自分を励ます。


「はっ!?」


 何気に目を向けた馬小屋でまた変なものを見つけてしまう。
 今度は馬の中の一頭に人間の男性の顔をした馬が居たのだ。


「久慈さん久慈さん!そこにも妖怪らしき方が見えるのですが?」


「妖怪はあとから紹介しようと思ってたんだけどなぁ。まぁいっか、彼は旅人馬(たびびとうま)のシーバさんだ。ついでに説明しておくけど、ここの妖怪たちは開園したら完全に動物に成りすます。だから、余計な心配はしなくて良いからね」

[大失態]


「久慈さん、流石にそこは心配してません!」


 開園してからも顔がこのままだったら、即マスコミに知られて大ニュース間違い無しだ。


「そ、そうか。それは悪かったな」


 シーバさんにも自己紹介しておこう。

「シーバさん、わたっ…」


「さっき聞いてたから自己紹介は不要だだ。まあ仲良くやって行こうじゃないか」


 自己紹介は入り口でシーバさんに割り込まれて即終了。


「黒川さんこっちに来て!飼料の配合を教えるから」


 それからは飼料の配合をしたり、野菜や草を運んだりとなかなかの重労働が続いた。
 動物園の仕事は、動物が好きなだけではやっていけないとは聞いていたけれど、実際にやってみて改めてその厳しさを知る。
 力仕事などやった事の無いわたしはあっという間にへなへなになり、座り込んでしまったところで気付く、と言うか何故ここまで気付かなかったのだわたし!
 体力が無いのであれば他の力を使えば良いではないか!そう、わたしは魔女であり、普通の人間が使えない魔法を使える!しかも今は見られて困る人もいない!ここで使わずしていつ使うと言うのだ黒川紗理亞ーーーっ!
 一人で盛り上がってしまったけれど、念のため許可は取っておこう。


「久慈さ~ん、仕事を魔法使ってやるのってありですか~?」


 久慈さんが中身の入った大量の飼料袋を肩に担いで真顔で答える。


「…そんなの良いに決まってるじゃないか。僕はてっきり身体を鍛える為に敢えて魔法を封印してるのだと思ったよ」


 …最初に言ってくれたら良かったのに。
 まあいっか。
 でも、まさか魔法を外で自由に使える日が来ようとは…何だかワクワクして来た。
 魔女は血に混ざっている魔力を引き出して魔法を使う。
 さてと今回はどうしてやろうかな…物体に意思を与えて動いて貰うか?それとも物体を魔法で一気に移動させる?
 後者を選び目を閉じて魔力を引き出した。
 わたしの身体に「ブアッ!」と魔力が溢れ出し、飼料袋の積まれている場所へ手をかざす。


「えいっ!」


 掛け声と共に魔法で20袋ほどの飼料袋をまとめて宙に浮かせた。


「でいっ!」


 2度目の掛け声で久慈さんのいる場所へ移動!?


「やばっ!?ご、ごめんなさーい!避けてーーーっ!」


 叫び声に気付いた久慈さんが振り向いたけど時すでに遅し!?


「ドドドドドドドド!」


 中身の入っている飼料袋で生き埋めになってしまった!
 わたしは慌てて久慈さんのところへ走り寄る。


「久慈さん死なないでーっ!」


 終わった。


 [新入社員が初仕事で先輩社員を殺害]新聞記事の見出しが脳裏に浮かぶ。
 涙が溢れて止まらない。


「ぐじざーんごめんなざーい」


 その時、飼料袋で出来た山が動いた!


「ブォゴッ!」

「これくらいでは死なーーーん!!!」


 良かった。久慈さんは元気に生きていた。

[動物と妖怪]


「黒川さん、魔法を使うのは構いませんが、使う時は十分な注意を払ってください!」


 何事も無かったかのように眼鏡の位置を直す久慈さん。素敵です。嘘です。


「すみません気をつけます!それより久慈さんが無事で元気そうで何よりです!」


 この言葉に嘘は無い。本当に無事で良かったし、わたしの人生もう終わらなくて良かった。


「取り敢えずこの飼料袋を整理してくれないか?それで給餌の準備は完了だ」


「了解です!直ぐに整理しますね!」


 今度は反省点を踏まえて、魔法を使い丁寧に動かして飼料袋を整理した。


「お、流石は魔女さんだ。仕事が早いねぇ」


「いえいえ、でもここでは魔法が使えるので力仕事も大丈夫そうです」


 家の中以外で魔法を使うのは本当に久しぶりで解放感があった。ヘマもしてしまったけれど、初仕事で褒められたのはとびきり嬉しい。


「今朝は別の人がここの清掃をしてくれたけど、明日からは出勤後に軽いミーティングをしたあと、ここに来て掃除からするんだよ」


「了解です!掃除が先ですね!」

 そのあと、久慈さんから掃除用具の保管場所と掃除の仕方を教わり、わたしの担当する動物たちの健康チェックを兼ねて、動物と妖怪を紹介してもらった。


「見れば分かると思うけど、この柵の中に居るのは羊のコリデール種だよ。で、あそこに穴を掘って顔を出してるのが墳羊(ふんよう)という妖怪のラゴスさん」


 柵の角に穴があって一見普通の羊に見えるけど、明らかに他の羊とは顔や雰囲気が違う。


「ラゴスさんはお客さんが来てる時もああしてるんですか?」

 あのままでも問題は無さそうだけれど、お客さんから注目の的にもなりそうな…


「あの穴の横に穴があって、その更に奥の穴に棲家を作っててね。開園中は姿を現さずに多分ずっと寝てると思うよ」


「そうなんですねぇ。何だかぐうたらな妖怪さん」


 牛女のトクさんや旅人馬のシーバさんは、ちゃんと他の動物と同じ姿になって仕事してるのに…墳羊のラゴスさんはちょっとずるいような気がする。


「こっちが山羊の柵。あそこに禍々しい妖気を出してる片足の山羊が見えるだろ。遥々沖縄の宮古島から来た片足(かたぱぐ)ピンザと云われる妖怪だ。地元では人の魂を抜いたり、呪ったりすると伝わってるらしい」


 話しを聞いたわたしはゾッとして青くなった。


「な、何ですかそれー!魂抜いたり、呪いをかけたりって…危なすぎるじゃないですかーっ!」


「あ、だから危険過ぎるという事で、園長にその能力は封じられてるから心配ないよ」


「そ、それは良かったです。少しは安心しました」


 片足ピンザさんには出来るだけ近づかないようにしよう。

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