「ふぅん、あいつの言いそうな事ね…」
「そんなエヴェルさんの姿に心打たれて、人助けの出来る勇者に絶対なろうと決めたんです」
「なるほどね…でも、君はご両親が亡くなってからどうやって暮らして来たの?」
「僕には両親の他には身寄りがなかったので、薪割りのアルバイトをしたり、山で狩りをしたり、野菜を自家栽培したりして何とか一人で暮らしていました。そのお陰で料理が得意になったし体力もついたんです」
カミュの話を聞いたマリムは、自分の子供の頃を思い出していた。
今でこそ究極の魔女と呼ばれ、人から賞賛されている彼女だったが、実は子供の頃から大変な苦労を経験して来たのである。
「そんな君が勇者になる方法を私に訊きに訪れたというわけか…」
「五大英雄のうち4人の消息は不明で、マリムさんがダンジョン系のセラピストをしてるという噂を聞いたものですから」
100階層到達の記録を持つマリムの所属したパーティの五人は、世間では五大英雄と呼ばれていたのである。
「でもね、カミュ。勇者というのは魔王を倒したりとてつもない偉業を果たしたりして、人から認められてなるものなのよ。だから、すぐにどうこうしてなれるものではないの」
「…そうなんですね」
カミュはマリムの言葉を聞いて酷く落胆していた。
「そんなに気を落とさなくても良いんじゃない?君の憧れるエヴェルだって、勇者と云われるようになるまで何年も掛かってるのだから」
「…ですよね。エヴェルさんも始めから勇者だった訳では無いですもんね!」
「それにこれからは、君が勇者になれるように私がアドバイスをしてあげるわ。あ、もちろん条件付きだけど」
「僕が勇者になれるようにですか!?どんな条件でも言ってください!」
二人のやり取りを聞いていたレコが口を挟む。
「カミュ駄目だよ!マリムにそんなこと言ったらとんでも無い条件を突きつけられちゃう!」
「フフフ、もう遅いわ。って言うかそんなの関係ないけどね。それに今の君にとっては良い事づくめだろうけれど」
カミュがゴクリと固唾を呑んだ。
「これから先、君がダンジョンでギラを稼げるようになったら、全額の半分を私によこしなさい。それと、この家の料理や片付け、掃除や洗濯などの家事をやること。ただし、2階の空いてる部屋を提供するわ。つまり今日からここが君の家よ」
なかなかの厳しい条件のようだったけれど、今までの辛い想いもあってか、カミュは涙を流しながら喜んでいる。
「マリムさん!本当に本当に感謝します!」
カミュが席を立って頭を下げると、その頭を撫でて「よしよし」するマリムであった。
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