究極の魔女はダンジョン系セラピスト 2~4話

究極の魔女はダンジョン系セラピスト

[ギルド「エスカイア」]


 マリムの家はレンガ造りの2階建てになっており、セラピストの仕事には1階の部屋を使っている。

 1階には仕事部屋とは別にキッチンとバスルームがり、2階は寝室の他に3部屋あるが一部屋は物置になっていた。
 そんなちょっと古めなマリムの家の前にはジオマールの大通りがある。
 この大通りを北に真っすぐ進むと、町の中心部にあるギルド「エスカイア」に辿り着く。
 黒猫のレコは北へ向かって走るカミュを見つけ、5mほどの距離を保って後ろ走っていた。
 ギルド本部の建物はまるで城のような色と形をしていたが、役所のように半分ガラス張りのドアによる出入り口が数カ所あり、本部の中央正面にはそれらの出入り口よりも大きく豪華な構えをしている。
 カミュは走ったままその本部中央出入り口を通り内部に入って行った。
 レコも続いて走ったまま内部に入る。
 入ってすぐ目の前には案内所があり、そこで案内係をしている女性に向かって息を切らしながらカミュが質問する。


「ハァハァ、あの、僕、ハァ勇者になりハァたいんですけど、どうしたらハァ、いいでハァしょうか?」


 案内係をしているヒューマンの女性の名はクラッセ。年齢は22歳でタキシードのような服を着用している。黒髪で笑顔の綺麗なお姉さんという感じだった。


「あの、申し訳ございませんが息を整えてもう一度言っていただけませんか?」


 クラッセに困ったような顔をされてカミュが素直に息を整えて言い直す。

「僕は勇者になりたいんですけど、どうしたらいいでしょうか?」


 再度質問を聞いたクラッセだったがまだ困ったような顔をしている。


「勇者、ですか…難しい質問ですね。…とりあえずギルドに冒険者登録をしてはどうでしょう?」

「それってどこに行けば出来るんですか?」


 クラッセが手を伸ばして方向を示し案内する。


「あちらの[ギルド係]に行っていただければ、係の者が対応いたしますので」


「ありがとうございます!」


 カミュは笑みを浮かべてクラッセにお礼を言うと案内されたギルド係へ駆けて行った。
 窓口には年齢が50歳くらいでヒューマンのダイムという男が椅子に座っている。


「すみません!このギルドに冒険者登録をしたいんですけど!?」

 真面目そうな顔でベテランのダイムが訊く。


「君、いくつだい?冒険者の登録に年齢制限は無いけど若すぎるんじゃないか?」


「年齢は13歳です。若すぎても僕は早く冒険者になって勇者になりたいんです!」

「13歳!?そんな若くてしてダンジョンに入るのは危険だし、冒険者になれば勇者になれるという訳でもないぞ」


「お願いします!僕はとにかく前に進むしかないんです!」

[冒険者の登録]

 カミュの必死さに気圧されたダイムは、仕方なく書類をカウンターの上に差し出した。


「まあ、過去に13歳で冒険者登録をした者がいなかった訳じゃない。しかし、決して一人でダンジョンに入るのだけは止めてくれよ」

「ご心配ありがとうございます。わかりました!決して一人でダンジョンには入りません!」


 書類に記載されている契約条項に目を通し署名して拇印を押す。


 カミュから差し戻された書類を手に取り、確認したダイムが今度は銀の指輪を差し出した。

「この指輪は冒険者登録をした全員に渡される[冒険者の指輪]という物だ。冒険者の証であり、持ち主のステータスを表示する機能がある。他にも機能はあるが主なものは今云った二つだ。これを左手の中指にはめてみろ」


 言われた通りカミュが指輪を指にはめると、一瞬「ピカッ」と光り、サイズの合わなかった指輪がピッタリと指にフィットした。
 真面目な顔のダイムが更に真面目な顔をして告げる。


「カミュ・ローグハート。これでたった今から君はギルド・エスカイアの冒険者となった」

「あ、ありがとうございます!…でも、今更なんですがお金を余り持ってないんです。登録料っておいくらなんでしょうか?」


 カミュが不安そうな表情で訊くと、ダイムがニカッとして答える。

「安心しろ。冒険者の登録は無料でやっている。冒険者にとって大変なのはこれからだ。頑張れよ!」


「これからもよろしくお願いします!頑張ります!」


 そう言ったあとカミュはまた案内所に移動した。

「クラッセさーん!冒険者登録が済んだんですけど次はどうしたら良いしょう?」


 クラッセが微笑みながら案内する。

「それは良かったですね。ではあちらの[ダンジョン係]に行っていただきますと、係の者がダンジョン挑戦の心得を説明いたしますので」


「助かります!クラッセさん!」


 あっという間に[ダンジョン係]へと駆けて行った。


 建物内部の壁上の梁にずっと座って観ていたレコがぼ独り言を呟く。

 
「あの子13歳なのに凄い行動力だなぁ。13歳の頃のマリムを観てるみたいだ…」


[ダンジョン係]の窓口の造りは[ギルド係]とほぼ変わらなかったが、対応する事務員は若いヒューマンの女性だった。


「さっき冒険者の登録を済ませたばかりの者なんですけど…」


 若すぎる冒険者の姿を見て女性が少し驚いた顔をして言う。


「あら!若い冒険者さん。私はティルミと申します。登録を済まされたばかりの冒険初心者の方ですね。マニュアルを準備しますので、こちらに座ってお待ちください」


 カミュは個室に案内され椅子に座ってティルミを待った。

[冒険初心者]

 ティルミがダンジョンマニュアルを腕に抱え、カミュと対面の椅子に座り説明を始める。

「ではカミュさん、ダンジョンに関する注意事項などを説明させていただきますね」


「お願いします!」


「まずダンジョン[エルジオ]の入口ですが、この建物内中枢にある魔法障壁で囲まれた[ダンジョンルーム]内に在ります。ダンジョン探索を始める際は、ダンジョンルーム出入り口のドアに冒険者の指輪を当ててお入り下さい。ダンジョン探索は一人でも可能ですが、冒険者の間では4人から6人パーティでの探索が主流の様です。ギルドでは有料で冒険者のパーティメンバーの斡旋もしておりますのでご利用ください」

「あ、それは有料なんですね」


「そうなります。因みに冒険者へ実施しいているギルドの無料サービスは、この冒険初心者の方への説明が最後となり、あとは全て有料になりますのでご了承ください」

「それはそうですよね。お仕事ですから…」


 お金の無いカミュにとって「有料」という言葉は重く、少し元気が無くなり肩を落とす。


「次にダンジョンのモンスターを倒した時に得られる報酬ですが、経験値とお金の他にモンスター特有のドロップアイテムを取得する事が出来ます」


「すみません、経験値ってなんですか?」


「冒険者にはレベルという概念が存在していて、レベル上げで必要になるのが経験値になります。モンスターを倒した際に経験値が冒険者の指輪に自動的に蓄積され、[冒険者の部屋]という場所で蓄積された経験値が解放され冒険者のレベルアップに繋がります」


「な、なるほど…」


 このあともカミュはダンジョンと冒険者の説明を30分ほど受けた。

「説明は以上になります。詳しい内容はこちらのダンジョンマニュアルに書いてありますので、あとでご覧ください。ではカミュさんのご検討を祈っております」


「ありがとうございました。頑張って強くなります!」


 カミュはティルミから薄い冊子のマニュアルを受け取ると、案内係のクラッセにお礼を言って外に出たのだった。
 外は陽が落ちつつあり、青かった空は橙色に様変わりしている。
 「ぐ~」とカミュの腹が鳴り一人ごとを呟く。


「今日も朝から何も食べてないし、腹が減ったなぁ…でもこのお金を使ってしまえば無一文だ…」


 実のところ3日間で口にしたのは水だけだったのである。


  マリムに見せた金が本当に全財産だったカミュは、食料を買って食べるか、明日まで我慢するか葛藤しながら下を向いて大通りを歩いていると…


「君、今夜泊まる宿はあるの?」


 カミュに声を掛けたのは、箒にまたがって空中に浮くマリムだった。

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