[町外れのボロ家]
俺とシャーリはジョショの情報をもとに早々と赤兎の町に着いた。
初めて訪れた赤兎の街並みは師匠らの住む白露と似ている。
この町のどこかにホウハクが住んでいるのは確からしいが、ジョショは詳細な位置までは知らなかった。
地道に歩いて町に住む人々からホウハクの情報を集めた結果。
奇人、変人、遊び人、貧乏人であることや、家のある場所の情報まで入手出来た。
早速向かい程なくホウハクの家だと思われる家に着く。
「悪いけど、これって本当に人が住んでるのかなぁ?」
シャーリが家の見た目からしてごもっともな質問をする。
「ん、まあ。ギリギリ家の形はしているし、外には洗濯物も数枚干してあるから住んでるんじゃないかな」
この家は町の外れにあり、他には人の家らしき物は一つもなかった。
家自体も木造で築100年は経っているのではないだろうか。
俺は外から家に向かって呼びかける。
「どなたか居ませんかー?忍びの国絶影が統治者のレオンと言いまーす!」
すると家裏の方から男の声がする。
「用があるなら家の裏に来てくれー!今は手が離せないんだー!」
俺とシャーリは家裏の方へ行ってみることにした。
家裏には小さな川が流れていて、川の手前の岩に腰掛けて竿釣りをしている若い男を見つけた。
「つかぬことを伺いますが、あなたがホウハクさんでしょうか?」
男はこちらを向いて一瞬睨むとすぐに顔を戻して答える。
「いかにも。私がホウハクで間違いはないが、国の統治者様がなぜこのような所まで来たのだ?」
ホウハクは見窄らしい格好をしていているが、見た目だけで判断するなら25歳くらいだろうか。
態度のデカさが引っかかったが、取り敢えず目的の人物に逢えたので良しとしよう。
「突然の話しで驚かれるかも知れませんが、あなたを軍師として迎え入れるために来たのです」
ホウハクが怪訝な顔をする。
「これは驚いた。仮にも一国のトップとあろう者が素性もよく分からぬ男を軍師に迎え入れるとは、民衆に笑われてしまうぞ!」
言っていることは間違ってはいないな。
「ジョショという男からあなたの名前と実力を訊いて飛んで来たんですよ」
「ジョショ…」
ホウハクは何かを思い出し考えているように見えた。
「ジョショという名には聞き覚えがある。あいつは今どうしているのだ?」
「俺の片腕となり内政をまとめてくれてます。とても優秀な男ですよ」
「ほぉ、あいつがねぇ…ジョショとは学問を競い合って学んだ仲だ。あの男があなたの配下になったと言うのであれば、歳はかなり若く見えるがあなたは骨のある人物のようだな」
「そう見込んで貰えたならあなたも軍師となり、俺に力を貸してもれませんか?」
[生まれ変わる]
ホウハクが釣竿を岩に立て掛け、腕組みをして真顔で言う。
「分かった。ただし三日でこのボロ屋を修復して見せろ。もし、私の満足するまで修復できたその時は、貴方の配下になってやろう」
俺を試しているのだろうが無茶な事を言うものだ。
「俺は大工じゃないですよ。そんな無茶な条件では無く、他の条件を提示して貰えないでしょうか?」
「いや、私に考えがあってのこと。これ以外の条件は出さん。出来ぬならこのまま帰ってくれ」
やるだけやってみるか…そう考えだしたところでシャーリが話す。
「このボロ屋を綺麗にしたら約束通り配下になってくれるんでしょうね?」
「ああ、約束は必ず守る」
「分かったわ」
シャーリがボロ屋の方を向き右手に持った杖を振る。
「バラバラになれーーーっ!」
「バラバラバラッ!」
一瞬にしてボロ屋が骨組みの部分だけを残してバラバラになってしまった。
鼻水を垂れて驚き取り乱したホウハクが叫ぶ!
「何してくれてんだ小娘―――っ!これじゃ暫く野宿じゃねーか!」
ボロ屋とはいえ自分の家が修復どころかほぼ全壊したいのだ。
ホウハクの主張は誰が見ても当然だろう。
不安になった俺が訊く。
「シャーリ、これって何か考えがあってやったんだよな?」
シャーリが真剣な顔をして答える。
「当たり前でしょ。わたしを信じて最後まで見てて」
そう言うとシャーリはまた杖を振る。
「さあ、木材さんたち生まれ変わりなさい!」
すると、残っていたボロボロの骨組みの木の色が変わり、破損していた部分が回復し生気を取り戻したかのように見えた。
杖を振り続けると、バラバラになって地面に落ちた木材も同じように変化していく。
俺とホウハク不思議な現象を目の当たりにして、ただ茫然と見ているだけだった。
ボロ家の木材が全部若返ったようになったところで、シャーリが木材に向かって杖を振り呼びかける。
「さあ、あなた達!綺麗な家に生まれ変わるのよ!」
木材が次々に地上から浮いて動き出す。
「カコン!ガコン!カコン!ガコン!」
と音を立てながら床が張られて行きあっという間に完成した。
次に木材が積みあがって行き壁を作り出す。
壁が出来上がると天井が形成され、遂に屋根まで出来上がり綺麗な家が完成してしまった。
シャーリがホウハクの方を向き話す。
「はい、完成したわよ~。これだけ綺麗に修復したんだから満足したでしょ。約束通りレオンの配下になってね」
家が出来上がっていく様を放心状態で見ていたホウハクが「ハッ!」となり答える。
「あ、ああ。私の意図していた条件達成の過程ではないが、約束通りレオン様の配下となろう」
[第一部最終話]
新築で建てた時より綺麗になったであろう元ボロ家に入り話をする。
俺とシャーリが並んで座っているところへ、ホウハクがお茶を入れて置き自身も座った。
お茶を一口飲んだホウハクが話し出す。
「レオン様がこちらに訪れてからの数々のご無礼失礼致しまた。私は普段から自身の素行を気にしない無骨者で世間には知れておりますが、身の置きどころが変わればそれなりに分別のできる人間でもあります」
俺は堅苦しい場や雰囲気は苦手なタイプである。
「気にしないでくださいホウハクさん。俺もこんななりをしていて特に礼儀を重んじる人間ではないです」
「…心の広いお方であると解釈します。では早速本題に入りましょう。私を軍師にということでしたがレオン様の野望を詳しく教えてもらえますか?」
「詳しく話すほどの野望はまだ俺にはありません。それに野望という言い方とは少し違うのですが、とにかく俺はこの世界を統一しなければならないんです」
「…世界統一ということは全ての国をレオン様の支配下に置くと解釈しても?」
「ん、まあ簡単にまとめるとそういう話です」
「失礼ながらこれはかつて聴いたこともない大義な話ですね。そのような考えを持つ者は、この世界においては魔王くらいのものでしょう。人間の身で世界統一を成すのは至極困難な道ですよ」
「だからこそ、ジョショが強く推すあなたを軍師に迎え入れたんですよ」
「世界地図があれば私の考えを上手く説明できるのですが生憎ここにはないのです。レオン様は世界地図を持ってないでしょうか?」
シャーリがホウハクの言葉に反応して魔法のバックパックを漁りだした。
「んー、この中に入ってるはずなんだけど…あ、あったあった!」
一つの古びた巻物を取り出し紐を解いて床に広げた。
「じゃーん!この世界地図も祖母から貰った物だよ~。これで良いかな?」
ホウハクが目を輝かせて地図を見ている。
「こんな完成度の高い世界地図は初めて見ましたよ。ありがとうございますシャーリ殿!」
「いや~わたしって本当に役立つ賢者だね~」
口に出して自画自賛するシャーリであった。
「ではこの地図を使って説明しましょう」
このあとホウハクによる説明を俺とシャーリは真剣に聞き、ホウハクの天才的な軍略と頭の良さに感嘆させられた。
異世界統一という途方もない目標が、ホウハクのお陰でより現実味を帯びてきたような気がする。
ホウハクを含めた三人で城下町青玉に戻った。
ジョショを呼び4人で今後の国の方針を取りまとめ、俺が国民に向け所信表明演説を行うことになった。
翌日の所信表明演説を機に、国盗り物語は壮大に展開していったのである。
転んだら異世界統一の刑だった!~元暗殺者の国盗り物語~ 第一部 完
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