転んだら異世界統一の刑だった!~元暗殺者の国盗り物語~ 31~33話

転んだら異世界統一の刑だった!~元暗殺者の国盗り物語~

[転生人]


「水遁!水泡連撃(すいほうれんげき)の術!」


 俺の苦手とする水遁か!

「ダッダダダダダダダダッ!」


 サイゾウが声を上げて両腕を動かし、野球ボール大の水球が凄まじい速さで飛んで来た!
 避けても避けてもマシンガンのように次から次へと撃ってくる。


「つっ!」


 右腕に掠っただけで激痛が走る威力だ。


「水遁!水壁(すいへき)の術!」

 俺は咄嗟に水の壁を出現させて防御に切り替える。

 水球は水の壁に当たると消滅し防御策は功を奏した。
 奴の忍術を放つ声が聴こえる!


「土遁!岩石落しの術!」

「ボゴボゴボゴボゴボゴゴゴゴゴゴッ!」


 地面から直径1m前後の岩が数十個飛び出し、ほぼ真上から広範囲に渡り俺に向かって落ちてくる!


「土遁!土竜(もぐら)の術!」


 素早く土を掘り地中に潜って何とか回避できた。

 間抜けな術で使いたくなかったが背に腹は代えられない。


 奴は忍術も一流のようだ。ここは体術勝負で行ってみるか… 

「いつまで地中にいるつもりだ。それでは反撃も出来んぞ」


 言われなくても分かってるよ!


「ボゴッ!」


 ハンゾウの足下から飛び出し鉄の剣で切りつける!

「キィン!」


 予測していたのか!?奇襲は簡単に刀で受け止められた。
 そこから俺は鉄の剣で怒涛の攻撃を繰り出す! ここでも暗殺者時代に訓練した居合道や剣道などの技術が活かされる。
 何十合と剣と刀の技をぶつけ合い徐々に俺が圧していた。

 どうやら剣術においてはこちらに分がある!


「ザン!」


 俺の剣が遂にハンゾウの右肩を斬る!深くは無いが初めて身体にダメージを与えたのだ。


 煙玉!?突如として煙が上がり俺の視界から奴の姿が消える!
 前進して煙から抜け出すと距離を取ってハンゾウが立っていた。


「剣術では貴様に分があるのは認めてやろう。だが、残念なことにそれだけではオレに勝てんがな」

 こいつ実力者の癖に自分を過信しないタイプか…やっかいだな。

 自分の力を過信してくれれば隙が生じるのだが、ハンゾウにはそれが無いという事だ。


「貴様はこのまま殺してしまうには惜しい男だ。少しおもしろい話をしてやろう」


「おもしろい話?」


 決闘中に話すことってなんだ?まあ貴重な情報を得られるのであれば聞いてやろう。


「オレは転生人だ。15年ほど前この世界に転生された」

「転生人!?」


 師匠から聞いた話は本当だったな。という事はこの強さで更に何か特別な能力を持っているというのか…


「貴様の強さはなりたての忍者とは到底思えん。それに先ほど見せた剣技はこの世界で目にした覚えがないものだ。貴様も転生人なのだろう?」


 御名答。


「だったら何だと言うんですか?」

[水遁 八岐大蛇の術]

「金は返してやるからオレの配下にならないか?」


 ん!?何を言っているんだこの男は。 俺の刑からしてあり得ない話だ。
 あの世でアテナと接触した時の事を思い出しハンゾウに確かめる。

「その前に幾つか質問してもいいでしょうか?」


「…何だ言ってみろ」


「あなたは誰に逢い、何の刑でこの世界に転生されたのですか?」


 ハンゾウが何か考えているようだが、頭巾が邪魔をして上手く表情から読み取れない。


「オレがあの世で逢ったのはアレスという軍神だが、貴様の言う「刑」とはなんだ?」


「あ、いや深い意味は無いのですが、俺はあの世でアテナという女神にある刑を与えられたんです」


「どんな刑だ。詳しく話せ」


 この際だ。全部ぶちまけてやれ。


「異世界統一の刑といって、この世界を統一しなけれなければならないんですよ」

「クックッ、貴様が異世界統一?片腹痛いわ!」


 流石に今のはカチンと来たぞ。


「という訳であなたの配下になる事は絶対できません!決闘を再開しましょう!」


「惜しいが仕方あるまい。せめて楽に殺してやろう」


 奴に半端な忍術は時間とチャクラの無駄遣いだ。

「臨、兵、闘、者、皆、陣、烈、在、前!チャクラ開放!」


「ボッ!」


 試験で決着をつけた時と同じようにチャクラを開放した。

「雷遁!雷閃光の術!」


「ヒュッ!」


「キィーン!」


「!?」


 俺は驚愕した。
 首を一瞬で切り落とす筈だったのだが刀で防御されたらである。
 師匠ですら反応できなかったスピードに反応するとは…


「大した速さだが全く見えない訳ではなさそうだ」


 ハンゾウがそう言って刀を振った。

「パキン!ストッ」


 その刀が攻撃を受けた部分から折れ、その刀身が地に刺さる。
 俺は笑顔で言ってやった。

「速さも威力も抜群なんですよ」


「なるほどな…ならばオレの本気を見せてやろう」


 どうやら怒りのスイッチが入ったらしい。
 ハンゾウが身体全体に力を入れ始め、徐々に禍々しい紫色のチャクラが放出される。
 人によりチャクラの種類が違い、見え方も違うと師匠が云っていた事を思い出す。


「ハーーーッ!」


 奴が叫ぶと俺と同じようにチャクラが身体を包み込んだ。
 人のチャクラをそんなに見た事の無い俺でも「やばい」と一瞬で分かる。


「覚悟しろ!水遁!八岐大蛇(やまたのおろち)の術!」


 ハンゾウの背後から水色の竜の首が一つ現れ、二つ三つと増えて行き、最後には八つにまでなった。

「グォオオオオオーーーッ!」


 八つの首が一斉に襲ってくる!


「ガァツン!」


 俺を噛み砕こうとする竜の口が空を切り激しい音をたてる。

「くっ!」


 竜の攻撃を避けてはいるが防戦一方になってしまった。

[闇属性の忍術]

 俺はなんとか回避しながらも、忍術を放つためのチャクラを練る。

 そして連続攻撃の微かな隙を見つけ忍術を放った!


「雷遁!大蛇雷の術!」


 師匠に放った時は2本の雷の鞭だったが今はチャクラ全開モード!
 8本の雷の鞭を生み出し反撃に転じる!


「ヴァシュン!」

 雷の鞭をまともに受けた竜の首は一瞬で掻き消えた!


 他の竜の首も雷の鞭で次々と掻き消し、遂には全ての竜の首を消滅させそのままハンゾウの攻撃にスライドする。
 形勢逆転! 今度は奴が防戦一方になる番だ。
 チャクラ全開で繰り出す鞭の威力とスピードは通常時のソレと比較にならない。


「ヴァリィ!」


「ぬぅおっ!」 


 回避していたサイゾウに鞭がヒット!
 強烈な一撃で動きが鈍くなり、そこから数発の攻撃を当ててダメージを与え行く!


「このまま押し切る!一気に決着だ!」


 俺は本気でそう思っていたのだが…

「余り調子に乗るなよ小僧!」


 相当なダメージを受けた奴の戦意は衰えていなかった!?


「闇遁(あんとん)!闇波動(やみはどう)の術!」


「闇遁!?」


 サイゾウが雷の鞭に向け手をかざす。

 その手から紫色のチャクラが、水面に水滴が落ちた時の波紋のように広がって行き、波紋に触れた雷の鞭が掻き消されてしまった。
  俺は短い時間ではあるが茫然としてしまう。


「クックッ、闇属性の忍術など初めて見ただのろう?」


 師匠から学んだ忍術は風、火、土、雷、水の5種のみ、他の属性忍術については全く訊いた事も無かった。


「それがあなたの特殊能力という訳ですか?」


 俺にしてみればそう考えるのが妥当である。

「…正解だ。そうこの闇のチャクラこそが転生時に得たオレの特殊能力だ。それを貴様が知ったとしても何も変わらんがな」


 確かにハンゾウの特殊能力を知っても状況が変わることはないだろう。


「そろそろ終焉だ。だが、殺す前に教えてやる。オレにかつて挑んで来た者は多くいたが、この闇忍術を使ったのは貴様の他にはサルトビだけだ」


 兄弟弟子のサルトビさん強かったんだな…生きていれば会ってみたい。


「最後に教えてください。サルトビさんはあなたとの決闘のあとどうなったんですか?」


「…さあな。あいつは決闘の場から逃げ出した男だ。その後は知らん。貴様も逃げ出していいんだぞ。クックッ」


 決闘から逃げるのは確かに恥だが、生きるという意味ではサルトビさんの判断は間違っていない。


 だが俺は…

「俺は逃げたりしませんよ。あなたに絶対勝ちます」


 と言っても俺にはそれほど余裕が無かった。


 チャクラ全開で大蛇雷の術を長時間使用した為、チャクラの残量が僅かだったのである。

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