[火遁 竜吐火の術]
忍者修行初日。
俺は朝から師匠のガビトさんに言われた通り、5階建ての家の最上階で座禅をしていた。
座禅は暗殺者の訓練メニューにも組み込まれていたので慣れたものだったが、問題は自身の中にあるチャクラを全く感じていない事にある。
精神統一をもっと深いところに落とし込まないといけないのだろうか?
この修行は焦ってはならない。
余計な迷いや疑問は心を乱すだけだ。
俺は徐々に思考を停止させチャクラを探すのを止めた…
余計な言葉いらない。
チャクラが俺の身体の中から生まれるイメージをする。
…………………。
…………………。
…………………。
…………小さい太陽のようなものが身体の中で生まれるのを感じる。
こいつを身体の外に出して服を着るような感覚で…。
「ボッ!」
よし、うまくいったかも!?闘気を纏っているような気がする。
師匠に見てもらいたいがどうしたら良いだろう?
「凄い!レオンさん。それって何が起こってるんですか?」
ロロアさんがタイミング良く様子を見に来てくれたらしい。
「チャクラを体内で生み出して身体に纏うイメージをしたんです」
「確かにそれはチャクラだわ。でもそんな大量のチャクラは見たことないです」
ロロアさんの様子からして、凄い事が起こっているのは分かった。
「折角ですから忍術をやってみましょう!こうして手を組んでチャクラを炎に変化させて息を吐くように炎を吐くのです!」
いきなり忍術!?俺は言われた通りイメージしながらやってみる。
「ゴオオッ!」
信じられないことに口から特大の炎が出てしまった。
「今のは竜吐火(りゅうとか)の術と言って火遁の初歩忍術です。でも忍者修行初日でやってしまうなんて…」
「ハハハ、これってやっぱり凄い事なんですね」
いつの間にか身に纏っていたチャクラは消え、この世界に来て初めてぶっ倒れそうな疲労感に襲われる。
「少し休憩しましょう。初めてであんなにチャクラを消費したから、レオンさんの身体はガタガタの筈ですから」
「そうした方が良さそうで…」
俺はそのまま気絶してしまった。
「ん…」
どれくらい気絶していたのか分からないが俺は目を覚ました。
後頭部が柔らかくて気持ちの良い枕に乗っかっている感覚がする。
「どわっ!?」
霞んでいた眼がハッキリしてロロアさんの顔がドアップで見え飛び起きた。
気絶している間ずっと膝枕をしてくれてたのか…
「すみません。醜態をさらしてしまって…」
何だか恥ずかしくて取り敢えず謝った。
「あら、忍術を実行させたのはわたしですよ。その所為でレオンさんを気絶させてしまったんです。いくらでも寝てくれて良かったんですよ」
ロロアさんは優しい笑顔をしていた。
[鉄の錬金術]
「なにっ!?初日で忍術を使えたというのか!?」
修行の様子を見に来た師匠が、ロロアさんから説明を受けて驚いている。
「御館様、レオンさんは本当にハンゾウを超える逸材かも知れませんよ」
「見込みのある奴と思ってはいたが、これ程とはのう…」
師匠が暫く考えて口を開く。
「レオンよ。異例中の異例だが禅による修行は初日で終わりとする。飯をしっかり食べてゆっくり休め。明日からは本格的な修行に移行するぞ」
「ありがとうございます師匠!感謝します!」
6日間の絶食を言い渡されていた俺は救われた。
チャクラの消費により腹が減り過ぎて死にそうだったのである。
因みにこの日のシャーリは、部屋に籠もって一日中錬金術マスター本を読んでいたようだ。
時は過ぎ、修行初日からもうすぐ3ヶ月が経過しようとしていた。
師匠による修行は激しく厳しかったが何とかここまで耐え、かなり短期間でこなしてきたのである。
俺は火遁、水遁、土遁、風遁、雷遁の5種の属性の忍術をある程度使えるレベルにまでなっていた。
属性忍術は人によって得手不得手があり、俺はどうやらチャクラの質からして雷遁の術が得意なようである。
逆に苦手なのは水遁の術で、初歩的な「水壁の術」をマスターするのに相当苦労させられた。
師匠が言うにはチャクラの質が硬めなため、柔軟性の必要な忍術は苦手になる傾向にあるらしい。
腕組みをして俺の前に立ち、真剣な顔をした師匠が言う。
「レオンよ。いよいよ明日の朝より免許皆伝の試験を行う。わしとの実戦形式の試験になるが、遠慮はいらん、全力を出すのだぞ」
「はい!師匠!」
俺とガビトさんの師弟関係は修行を通じて、ガッチリと強固なものになっていた。
「レオ~ン!ちょっと見て欲しいんだけど~!」
頭はいいが場の空気を気にしないシャーリが、俺と師匠のしみじみとした雰囲気をぶち壊す。
「また新しい錬金術をマスターでもしたの?」
シャーリは俺が修行をしている間、錬金術マスター本を基にメキメキと錬金術が上達していた。
「今度のは凄いよ~、やって見せるからガビトさんも見ててね~」
「ホホホ、これは楽しみだ」
「ふ~…」
シャーリが目を瞑り深呼吸をする。
「鉄錬金!おりゃーーーっ!」
叫ぶと同時に、シャーリの手から少し離れた場所に鉄が出現する。
「バリバリバリ!」
音を立ててその鉄が瞬く間に一本の鉄の木を形成してしまった。
「ホホホ、これはこれは見事なり」
師匠が愉快そうに褒める。
「でしょでしょでしょ~!」
シャーリは褒められ、小躍りしそうなくらい嬉しそうにしていた。
[忍者免許皆伝試験当日]
忍者免許皆伝試験当日。
試験は忍者の町白露から少し離れた森の中で行われる。
支度をしていると部屋にシャーリがバタバタと入って来た。
「ねぇねぇ、今日の試験だけどわたしも観に行って良いかな?」
記念すべき日だ。シャーリに見届けて貰うのも悪く無いだろう。
「構わないけど観る時は距離を置いて観ててね」
「OK!じゃあ魔法の絨毯で森まで一緒に行こう!」
支度の済んだ俺はシャーリと共に魔法の絨毯で試験場所の森まで飛んで行った。
森の真ん中にある運動場のようなの形の場所である。
魔法の絨毯から降りると、森の中から師匠とロロアさんが忍び装束の姿で現れた。
「意外に早かったのう。もう少しかかると思ったわい」
「すみません。シャーリの魔法の絨毯で来てしまいました」
「ホホホ…体力の温存はできる限りしておけ、試験は激しいものになるからのう」
「レオンさんいつもの感じでいけば大丈夫ですよ。御館様もお歳なのですから張り切り過ぎないでくださいね」
師匠はロロアさんに釘を刺され頭を掻いていた。
「わたしは上の方で観てるからね~」
シャーリは魔法の絨毯に乗って上昇して行く。
「レオンさん、念のため試験のルールをもう一度説明しておきますよ」
「はい。お願いします」
「御館様が首に巻いている黒い布を30分以内に奪えば忍者免許皆伝となります。布を奪うために武器、忍術、体術のどれを使用しても構いません。もちろん御館様も攻撃しますのでご注意くださいね。時間切れ、気絶、死亡、逃亡のいずれかで失格となります。試験の説明は以上ですが何か質問はありますか?」
「いえ、大丈夫です!」
「御館様も準備はよろしいでしょうか?」
「わしはいつでも良いぞ」
俺と師匠が20mほどの距離を開け向かい合う。
ロロアさんが試験の始まりを告げる。
「ではいざ尋常に!試験開始!」
俺の脚力はこの3カ月で飛躍的に向上していた。
まずはその脚力を活かし先制攻撃だ!
電光石火で師匠の後ろに回り込み最初に覚えた忍術を放つ!
「火遁!竜吐火の術!」
「火遁!竜吐火の術!」
「!?」
師匠が後ろを振り向き様に同じ忍術で相殺する。
だが、その時は既に師匠の空中真上に跳躍していた。
極太の雷を師匠の頭の上に落とす!
「雷遁!雷神鉄槌!」
「ヴァリリッ!ズゥオォッーーーン!」
我ながら凄まじい威力で地面が砕け、大量の土埃が蒔きあがる。
「やるの~しかし飛ばしすぎるとあとが続かんぞっ!」
俺が着地した地点で背後を取られ首を狙っての手刀!?
素早くしゃがんでかわすと同時に繰り出した低空の回転蹴りはあっさり避けられる。
本当に相手は年寄りか?と思わざるを得ない師匠の身のこなし様だった。
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