[神の迅雷]
忍びの町白露に到着するまでにシャーリが話してくれたのだが、忍者というジョブは侍というジョブと並ぶ上級ジョブらしい。
因みに賢者は魔法系の上級ジョブだ。
戦士、魔法使い、僧侶などのジョブは下級ジョブ何だそうだ。
上級ジョブと下級ジョブの大きな違いは習得難易度の高さにあると云う。
どんなになりたくても才能が無ければ一生下級ジョブ止まりという事だ。
忍者のジョブは忍びの国が創設されるずっと前からあった訳だが、ガビトさんも若くして忍者になっていた。
現役バリバリの頃のガビトさんの二つ名は「神の迅雷」、忍者界では相当な地位ありに恐れられていたと云う。
プロ野球で言うところの名球会入りした選手のようなものかな。
そんな忍者として輝かしい経歴を持つガビトさんが、俺の師匠になってくれて嬉しく思う。
たった今俺の師匠になったガビトさんが口を開く。
「忍者になる修行は通常5年はかかると思ってくれ」
「何ですと!?」
俺は余りの一言に驚く。
「ちょっと待ってください!5年も修行に時間を割く訳にはいきませんよ!」
そう、5年経過した時点で俺はゲームオーバーなのだからこの返しは当然だろう。
取り乱す俺にシャーリが言う。
「レオン慌てないの。ガビトさんは「通常5年」と言ったのよ。つまり例外が有るということになるわ」
言われてみるとそうだ…俺としたことが… ガビトさんが戯けて言う。
「流石はマリーラの孫娘シャーリちゃん」
「“ちゃん”は付けないでください。ぶっ飛ばしますよ」
「ホホホ、その感じマリーラを想い出すわい」
その後も暫くガビトさんとシャーリのじゃれあい?は続いた。
俺の事は忘れられているのだろうかと思ったその時。
「パンッ!」
不意にガビトさんがロロアさんに後頭部を叩かれた音だった。
「御館様、レオンさんの話しが進んでおりません」
ロロアさん感謝します。 仕切り直してガビトさんが話す。
「えーっとそう、5年というのは一般論だ。例えばこのロロアは才能に恵まれ、たったの2年で免許皆伝になった秀才だぞ」
ロロアさんって凄いんだな。
しかし、2年でも俺にとっては相当なロスだ。
俺の表情で読み取ったかのようにガビトさんが続ける。
「もっと言えば、忍者の免許皆伝最短記録保持者はハンゾウだよ。奴は半年で忍者になってしまった恐るべき才能の持ち主だ」
何!?ハンゾウで半年!?常人なら絶望するだろうが、俺には希望の言葉に聞こえた。
「じゃあ俺はハンゾウの半分の3ヶ月で忍者になってやりますよ!」
「ホホホ、それはそれは頼もしいのう。ところでお主、転生人だろ?」
ガビトさんが「神の迅雷」と呼ばれていた頃はこんな感じだったのだろう。と想わせるような鋭い目で俺を見ていた。
[忍者への修行]
「………..」
俺が質問に答えず黙っていると、ガビトさんが顔を崩して話す。
「お主のここまでの様子を窺っておれば、普通の人間で無いのはこの年寄りの目をしても分かってしまうわい」
今までの言動や表情で筒抜けだったか。
「そりゃそうですよね。隠してもしょうがないなぁ。ガビトさんの言う通り俺は転生人です」
ふと思う、この世界に転生人は何人いるのだろう?
シャーリやドワーフのバースさん、そしてガビトさん。みんな俺が言い出す前に転生人というワードを使っていた。
これは以前からこの世界に転生人が存在している事を意味している。
察するに、現状において転生人が複数人居ると思って間違い無さそうだ。
「転生人は特殊能力を授かってこの世界に現れると云うが、お主にも何かしらの特殊能力が備わっているのか?」
ガビトさんはどこまで転生人について知っているのだろう?
「俺の特殊能力は恐らく、身体能力の飛躍的向上といったところですかね」
本当にこれが特殊能力なのか確かめる術が無いのだからこう言うしかない。
「ならば短期での免許皆伝もあながち夢物語では無かろう…」
ガビトさんは何か考えているようだった。
「詳しい修業内容を教えて貰えないでしょうか?」
「…ふむ、通常は基礎体力作りも修行の一環なのだが、お主の場合は省いてしまおう」
それは有り難い、早速時短できたな。
「よってお主には忍術の修行から入ってもらう。忍術には火遁、水遁、土遁、風遁、雷遁の5種の属性があるのだが、各属性の初歩的な忍術から習得するのだ」
忍術か、魔法みたいでなんだか楽しみになって来た。
ガビトさんが修行について続けて話す。
「忍術はチャクラと呼ばれる神気的なものを練り上げて使うのだが、そのチャクラをコントロールする鍛錬として、明日から三日間の座禅とそのあと更に三日間の立禅を行う。その間は水以外の物を口にする事を禁ずる。心しておけよ」
精神的な鍛錬は前世での合気道習得時に多少の経験があったが、6日間の絶食の経験は一度も無かった。
「明日からですね。分かりました、よろしくお願いします」
気の引き締まった俺は正座してお辞儀した。
「修行の間はこの家に寝泊まりすると良い。部屋は腐るほど余っておるからのう」
ガビトさんがそう言ってロロアさんに目配せする。
「畏まりました。部屋の準備をしておきます。お二人は別々の部屋がよろしいですよね?」
ロロアさんが聞くまでも無い事を俺達に聞いて来た。
「もちのろんです!」
俺が言う前にシャーリが怒ったような顔で強く返した。
[錬金術マスター本]
結局ロロアさんが個別に部屋を準備してくれた。
てっきり畳張りの部屋かと思っていたが、床はフローリングで壁や天井も和風感が全く無い。
俺の身体は体力的な疲れは余り無いのだが、精神的な疲れは普通にあるらしく、ベッドに上がり昼寝しようと横になる。
「バーン!」
シャーリが勢い良く部屋のドアを開ける音だった。
「ねぇねぇ!思ったんだけど、レオンが修行している間わたしは何してれば良いかな?」
もう少し静かに入れないのだろうか…しかしそう言われるとそうだな。
「因みにシャーリは3年間あの家で何して過ごしてたの?」
「え、ああ。魔法の研究や練習をしたり、本を読んだり絵を描いたり、魚釣りや買い物に行ったりあとは家事かな〜」
滲み出るスローライフ感。
「取り敢えず今まで通りで良いんじゃないな?あと時間があれば俺の修行を手伝ってくれるとか?」
答えたがシャーリは不満げな顔をしている。
「レオンが修行して強くなるんなら、わたしも何か身に付けて進歩したいんだよ〜」
「ご心配には及びませんわーーーっ!」
ロロアさんが何やら分厚く古そうな本を手にして会話に割り込んだ。
シャーリにその本を渡して言う。
「これをシャーリさんに渡すよう御館様から預かりました。錬金術マスター本らしいのですが、「わしにはサッパリ分からんからやる」だそうです」
本を開いたシャーリが目を輝かせる。
「ありがとう!ロロアさん!ガビトさんにもあとでお礼を言います。この本はわたしにとって宝石箱以上のの価値がありますよ〜!」
「かなり喜んで頂けたようでわたしも嬉しいです。あ、そうそう。夕食の準備が整いましたらまたお知らせしますので、それまでごゆっくりどうぞ」
そう言ってロロアさんは部屋を去った。
「めちゃくちゃ喜んでるけど、その本って何がすごいの?」
まだ目を輝かせたままのシャーリが答える。
「簡単に言うとねぇ、この本は凡人が読んでも意味も分からないからゴミ同然何だけど、天才賢者のわたしなら書いてある事を理解できるから宝石箱以上の価値があるの。つまりこの本に書いてあるのは錬金術の基本からマスターする術が書いてあって、錬金術をマスターした暁には「賢者の錬金術師シャーリ」の誕生という訳なの」
簡単と言った割には長かった。
「要するに俺が忍者の修行をしている間に、シャーリは錬金術をマスターして強くなるって事で良いかな?」
「そういうこと〜」
これでシャーリの時間も有意義に使えるようになった。
いつか紹介するが、この家にはガビトさんとロロアさんの他にあと6人も住人が居て夕食はとても賑やかなものになった。
明日は厳しい忍者修行の初日である。
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