[忍者の町 白露]
魔法の絨毯に乗った俺達は、信じられないほど短時間でティマールと忍びの国の国境を越え、忍びの国の町の一つ白露(はくろ)に着いた。
この町は日本の時代劇に出て来るような町並みをしていて、歩く人々の着ている服も和風の者が多かった。
軽くカルチャーショック的なものを感じる。
シャーリのバックパックに魔法の絨毯を仕舞い俺たちは歩いていた。
って言うか、シャーリのバックパックの大きさからして、魔法の絨毯が苦もなく収納できた事に物理的な違和感を感じたので訊いてみる。
「シャーリ、その背負ってるバックパックも魔法シリーズ的な物なの?」
「良いと質問ね。この魔法のバックパックも祖母の遺品なの。幾らでも物が入る優れものよぉ」
大賢者恐るべし、だな。
「ところでガビトさんの家ってこの町にあるの?」
「祖母から聞いた話しではこの白露町の何処かにある筈なのよ」
何処かで情報を仕入れた方が早そうだ。
「ちょっとそこの団子屋に寄って訊いてみよう」
「あ、良いわね〜。わたしお団子食べるの初めて!」
別に食べるつもりは無かったのだけれど…
仕方が無いので団子屋に入り注文する。
「串団子を6本ください」
団子屋の着物を着た中年のおばさんに注文する。
「毎度あり〜、600ギラになります」
良かった。どうやらギラは世界共通の通貨らしい。
金を払って肝心な事を訊く。
「ちょっと伺いたいんですけど、ここら辺に忍者のガビトさんの家って在りますか?」
「…後ろを見てご覧。5階建ての大きくて立派なお屋敷があるだろ。あれがガビトさんの家だよ」
一瞬怪訝な表情を浮かべるおばさんだったが、親切に教えてくれた。
買った串団子を外の腰掛けに座って茶をすすりながら二人で食べる。
串団子を幸せそうな顔で食べるシャーリに教える。
「目の前に見えるあの大きな屋敷がガビトさんの家らしいよ。お金持ちなのかな?」
「かもね〜。でも思ったより近くにあって良かったね〜」
食べ終わったあと直ぐにガビトさんの家に行った。
俺は入り口に立ち少し戸を開けて呼びかける。
「すみませ〜ん、ガビトさんいらっしゃいますか〜!」
すると奥の部屋から、この家にそぐわないメイド服姿の若い女性が現れた。
なんだ!?コスプレの趣味か!?
「わたしはこの家の手伝いの者でロロアと申します。御館様は只今留守にしておりますが、どの様なご用件でしょうか?」
シャーリが前に出て話す。
「わたしは大賢者マリーラの孫娘でシャーリと申します。ここに居るレオンは忍者の免許皆伝を志す者で、良ければ取り計らっていただけないかと訪ねた次第です」
俺はロロアさんの目つきが変わる瞬間を見逃さなかった。
[くノ一ロロア]
「あなたがあの大賢者マリーラの孫娘!感動ですわ~ハグしても?」
ロロアさんが「ハグしても?」と言いながら了承を得る前に、無防備なシャーリに抱きついていた。
しかし大賢者の名は水戸黄門の印籠並みだな。
「で、あなたが忍者を志す方ね!御館様が帰って来るまでにわたしが腕試しをさせていただきますわ!」
「!?」
お手伝いさんと腕試し?
「あの、意味がよく分からないんですけど、どういう事でしょう?」
「そのままですよ。わたしと手合わせするだけの事です。そちらの庭で早速始めましょう」
変な圧に負けて仕方なく庭に移動した。
庭の中央に俺とロロアさんが、空手試合の開始直前の形で向き合う。
ロロアさんが突然「バッサー!」とメイド服を脱ぎ上に放り投げると、赤色の忍び装束の姿になった。
「登場して間もないですが、メイド姿のお手伝いは仮の姿!真の正体は凄腕くノ一ロロアなのです!」
鼻水が出そうなくらいハイテンションな人だった。
「す、凄いな~これはびっくりだ」
起伏の無い感じで言葉だけを伝える。
「シャーリさん!開始の合図をお願いいたします!」
シャーリが楽しそうにして合図を発する。
「では~始めっ!」
と言った瞬間目の前からロロアさんの姿が消える!
いや!高速で姿勢を低くしての足払い!
間髪跳んで避けたところへ下から手刀が来る!
腕でガードしたが、浮いた身体はそのまま後ろへ吹き飛ばされた。
俺はくるっと一回転して着地する。
「今の2連撃を防ぐとはやりますね~レオンさん」
前世で同業者とやり合った事はあったが、パワーとスピードのレベルが違う。
しかし今の攻撃は納得いかないな。
「あの~、ロロアさん。これって腕試しなんですよね?さっきの手刀は普通の人間だったら死んでますよ」
ロロアさんが笑顔で返す。
「あら、わたしはあなたを最初に見て、これくらいなら大丈夫と見込んで攻めたんですよ。それともわたしの見込み違いだったかしら?」
有り難いが段々腹が立って来た。
「なるほど、分かりました。今度はこっちの番です」
「シュッ!」と音をその場に残し一瞬でロロアさんとの距離を無くして、正面から眉間を狙って手刀を繰り出す!
咄嗟に後ろに飛び避けられたところへ勢いそのままの回し蹴り!
これもガードされたが、ロロアさんは屋敷の壁まで吹っ飛んだ!
だが流石は忍者ギリギリで壁に着地!否!反動を利用して一直線にタックルして来る!
俺はそのタックルを合気道の技で受け流し、ロロアさんをお姫様抱っこしてやった。
「これで俺の腕前は分かって貰えましたよね?」
「は、い…」
ロロアさんはキョトンとした顔をしていた。
[弟子になる]
俺達はロロアさんによる腕試しが終わったあと、家の中に入れて貰いお茶をすすっていた。
ロロアさんはメイド姿に戻っていて、目の前でニコニコしている。
この人はこっちの方が似合っているのではなかろうか。
「レオンさんはわたしの見込み通り、いえ、それ以上の方でしたわ」
「見込んで貰って嬉しいんですけど顔が近いです」
ロロアさんは俺と鼻が付くか付かないかくらいの距離で話していた。
「あら、申し訳ありません。わたしはどうやらレオンさんのことをとっても気に入ってしまったのですよ」
「気に入っていただき光栄です。ところでガビトさんはあとどれくらいで帰宅するんでしょう?」
「そうですね〜、そろそろだと思うんですけど…」
「ガラガラガラ」
玄関の戸が開く音がした。
「御館様が帰って来たようですよ。ちょっと失礼しますね」
そう言ってロロアさんは急いで玄関に行った。
暫くして「ドドドドドド!」と廊下を走る音が聴こえた。
止まったかと思うと襖の横から皺くちゃで白髪の爺さんが顔を出し、シャーリの顔を見て言う。
「マリーラの孫娘は其方か!?ハグして良いかの〜!?」
「バタン!」
爺さんがハグをしようと飛びついたのだが、シャーリに避けられて畳みに倒れる。
「わたしにハグして良いのは女性だけですよ〜ガビトさん」
「つれないのう…マリーラはハグをさせてくれておったというのに」
「わたしは祖母とは違いますので」
シャーリはにこやかに返した。
ガビトさんが空いてる位置にあぐらをかいて座って話す。
「お主がレオン君か?ロロア聞いたぞ。忍者になりたいらしいな?」
「はい!修行でも何でもしますのでよろしくお願いします!」
「お主、今何でもすると申したな?本当に何でもしてくれるのか?」
やばい!とんでもない要求をされるフラグが立っている。
「言葉の綾でした!何でもは出来ませんし致しません。ですが、修行ならどんなに厳しくても耐えてみせます!」
「直ぐに覆すとは男らしく無いのう。まあ良いわい。して、お主はなぜ忍者になりたいんだ?」
「この国の忍者王ハンゾウに挑戦するためです!」
「ほ〜、それは大儀だな。ハンゾウの強さを知ってて言ってるのか?」
「いえ、良くは知りません。でも俺にはどうしても達成したい目標があって、これは避けて通れない道なんです!」
ガビトさんの目を直視しながら、俺にしては珍しく熱くなって言った。
「どうやらその目は本気のようだな…ふむ、おもしろそうだ。わしの生涯最後の弟子にしてやる」
「良いんですか!?ありがとうございます!」
こんなにあっさりガビトさんが師匠になってくれるとは…
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