転んだら異世界統一の刑だった!~元暗殺者の国盗り物語~ 7~9話

転んだら異世界統一の刑だった!~元暗殺者の国盗り物語~

[異世界の情報]


「き、君の名前は?」


 リーダーっぽい者が正気を取り戻したらしい。


「俺の名はレオンです!」


 自分で付けた名前だが段々気に入ってきた。


「そうかレオン君か。歳は幾つかな?」


 年齢か?幾つなのか俺自身すら知らないのだが、ここは見た目に合わせた方が後々面倒な事にはならないか…


「えーと、15歳です。あ~、エルドラゴンを倒せたののはたまたまですので気にしないで下さい」


「いや、たまたまでアレは倒せんよ。しかも15歳とは…君、何者だい?」

 やっぱり気になるよな…バースさんの時は運が良かっただけで、俺自身の設定をしっかり考えておくべきだった。

 さて、どうしたものか…


「まあ、良いじゃない。わたし達はこの子に助けられたようなもの何だから」

 魔法使いのお姉さんグッジョブ!

「ん…今は礼が先だな。俺このパーティのリーダーで戦士のガイツだ」


 予想通りリーダーか。


「今回は正直助かったよ。改めて礼を言う。ありがとうレオン君!」


 ガイツさんに続いて3人からも礼を言われて少し照れた。

 前世で暗殺者をやっている頃は依頼者と顔を合わせる機会は無く、礼を言われた記憶は一度も無かったから気恥ずかしい部分がある。

 礼を言われた後でそれぞれの名前を教えて貰った。


 魔法使いのレミさん。

 盗賊のリベックさん。

 僧侶のマールさん。

 んで、気絶してるのが戦士のゾルクさん。


「あの、ゾルクさん大丈夫ですか?」


 まだ回復魔法をかけ続けているマールさんに訊いてみた。


「心配してくれてありがとう。出血も止まったから多分大丈夫よ。意識が戻るのには時間がかかりそうだけど」


「そうですか、大事にいたらなくて良かったです」


 回復魔法って言うか、魔法って凄いな…

 さっき俺にイラッとしてた盗賊のリベックさんが口を開く。


「しかしゾルクはデカイし重いから運ぶのにタンカが必要だな」

 魔法使いのレミさんが言う。


「甲冑を全部外せば軽くなるんじゃない?」


 その意見に賛同したガイツさんとリベックさんがゾルクさんの甲冑を外す。


「あとはタンカだな。手分けして材料になりそうな木を集めようぜ」


 リベックさんがそう言ったあと全員で材料になりそうな木を集めた。

 集まった木をロープで固定してタンカが出来上がる。

 結局、ゾルクさんをタンカに乗せて運ぶのを俺も手伝った。

 暗殺者をやっていた俺が親切な行為を行うとは…どういった心境の変化だろうか…俺は自分の行動を不思議に感じていたのだった。


 ラドムまでの道のりで、パーティの人達からこの世界の事を色々訊き出した。


 戦士とか魔法使いとかいうジョブは、筆記試験や実践試験を受け、それをクリアして洗礼を受けると免許皆伝そのジョブを名乗れるらしい。


 エルドラゴンのようなモンスターは300種ほどが存在する。

 知能の高い魔王などは一国の王として君臨し、そんな国が5つもあるそうだ。

 国の話しで言えば、魔王が支配する国の他に、ドラゴンの国や精霊の国まであるらしい。


 つまり全部で13ある国の内、人間が支配する国は半分以下なのだ。


 異世界に無知な俺にとって他にも役立つ情報を色々教えてもらったが、今回はこの辺にしておこう。

[クエストの報酬]


 ラドムの町に着いたのは夕暮れ時だった。

 取り急ぎゾルクさんをパーティの宿屋に連れて行き、俺とリーダーのガイツさんでギルド本部へ向かう。


 ギルド本部に入ると受付のナンナさんがまだ居た。

 ガイツさんがクエストの結果について話す。


「エルドラゴンの討伐をここの彼と共闘でコンプリートした。だが、9割以上彼の働きに寄るものだから、彼に報酬の全額を渡して欲しい」


 ガイツさんて誠実な人だと本当に思う。


「承知しました。では討伐の証明となる龍の紅玉をご提出下さい」


 言われてガイツさんが龍の紅玉とやらを布袋から取り出して渡す。

 リベックさんがエルドラゴンの額を一生懸命掘ってたのはこれを取り出すためだったのか。

 ってか、あの紙に書いてあったのか!?これからはもっと丁寧に読もう。


「確かにお預かりしました。少々お待ち下さい」


 そう言ってナンナさんは後ろのドアを開けて部屋でもあるのか入って行った。

 ガイツさんと雑談しながら待っていると、入ったドアからナンナさんと現金を持った男が現れる。

 男は俺の目の前に現金を置くと、黙ってドアの向こうへ消えた。


「お待たせしましたレオンさん!報酬の1,000万ギラです。どうぞお受け取り下さい」


 待ってました!これで当面は金に困ることはないだろう。

 数えると札束は10束あった。

 俺はそのうち3束を手に取りガイツさんに言う。


「ガイツさんこれ、受け取って貰えますか?」


「は!?君が渡そうとしているのは300万ギラだぞ。それに全額君に譲るという約束だ。男に二言はない」


「あ、だからさっきナンナさんから報酬は全額受け取りました。これは僕の気持ちと言うかお礼です。黙って受け取って下さい」


 龍の紅玉の入っていた布袋に俺は無理矢理詰め込んだ。


「君って奴は…分かった有り難く受け取るよ。その代わりと言ってはなんだが、今晩は俺の奢りで一緒に祝杯を上げたいのだが時間はあるかい?」


 15歳と言ってしまったがこの世界では15歳でも呑めるのだろうか?


「じゃあ1件だけ用事があるので、それを済ませたらガイツさん達の宿屋に行きますね」


「了解。待ってるから必ず来てくれよ」


「はい!」


 ガイツさんはギルド本部を出て行った。 俺は2束取ってナンナさんに言う。


「ナンナさん、残りの500万ギラをここで預かってもらうことは可能ですか?」


「もちろんですよ。ではこちらにご記入下さい」


 名前と金額を書いてナンナさんに渡し、預かり証を受け取った。

 次はあの人にお礼をしに行かなければ。

 ギルド本部を出て酒場テペーロへと向かう。

 中に入ると昼間よりずっと多くの客で賑わっていた。

 カウンターのジュエルさんに話しかける。


「ジュエルさん、これ昼間のお礼です」


 そう言って10万ギラを差し出した。


「あら、やっぱりわたしの見込みに間違いは無かったようね。でもお礼は要らないわ」


「いえ、昼間にジュエルさんから受けた恩はお礼しなければ俺の気が収まりません。受け取って下さい」


「…仕方が無いわねぇ。だったらうんとサービスするからここで夕食を済ませな」


「…後で人を連れて来るんでその時にお願いします」


 俺はそう言い残してガイツさん達の待つ宿屋に行った。

[お見通し]


 宿屋に着くと意識の無かったゾルクさんがベッドで目を覚ましていた。


「初めましてゾルクさん。レオンと言います」


「君がレオン君か。話はパーティの連中から聞いたよ。一人でエルドラゴンを倒したんだってな」


「ま、まぐれですよ。もう身体は大丈夫なんですか?」


「マールの回復魔法のお陰でだいぶ良くなった。祝杯にも参加するよ」


「今夜はお酒は控えた方が良いんじゃない?」


 マールさんが気遣って言った。


「まさか!?この俺に酒を呑むなと言うのか?俺にとっては酒も薬になるんだぞ」


 ゾルクさんの言葉を聞いてみんなが笑っている。

 きっとこの人は大酒呑みなんろうな。

 酒と言えば…


「あの、つかぬ事を伺いますが、15歳でも酒を呑めるんでしょうか?」


「お前、この世界の人間じゃ無いだろ。うちの面子は口が堅い、安心して本当の事を言ってみろ」


 リベックさんは既にお見通しか…嘘をついたままでは話し辛いし本当の事を言ってみるか。


「はは、やだなぁ。リベックさんには敵わないや。実はそうなんです。前世では違う世界で生きてました。そこで死んで転生してこの世界に来たんです」


 恐る恐るみんなの顔を見るとなぜか笑顔になっていた。


「やっと事実を話してくれたな。これで美味い酒が呑めるってもんだ。因みにこの世界での飲酒は15歳からOKだ。一緒に心置きなく呑もうぜ」


 リベックさんは気難しいところもあるが、打ち解ければ気の良い人なのかも知れない。


「そろそろ祝杯を上げに行くぞ」


 ガイツさんが促す。

 俺はジュエルさんに人を連れて来ると言った事を思い出す。


「あの、酒場だったらテペーロに行きたいんですけどどうですか?」


「最初からそのつもりだ。あそこは雰囲気が良いし、マスターも美人だしな!」


 どうやらあの酒場は人気があるようだ。 酒場テペーロに移動してジュエルさんに話かける。


「ジュエルさん全部で6人なんですけど席は空いてますか?」


 ジュエルさんが笑顔で応えてくれる。


「特別席を用意しておいたよ。あっちの席だ」


「ありがとうございます!」

 用意されていた席に全員が着席する。

 座るとすかさずガイツさんが訊いて来た。


「レオン君はマスターと知り合いなのかい?」


「今日会ったばかりですけど、ジュエルさんの奢りでランチをご馳走になったんです」


 パーティの全員が驚いた顔をしている。


「料理をお持ちしました。失礼します」


 そこへ女性店員が料理を運んで来てテーブルに置いた。

 ガイツさんがその店員さんに言う。


「まだ俺ら注文してないんだけど」


「こちらは当酒場のマスタージュエルのサービスになります。ご遠慮なさらずお召し上がりください」


 サービスにしては豪華過ぎる料理だった。

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