ここからまた大嶽丸の力の出番だ。
足を動かすのを止めて足の裏から風を噴射!
自作のスクリューでスイスイ進む。
「ちょっとキキ!これってどうやって泳いでいるの?」
手も足も動かさずに泳いでいるのだから当然の疑問だ。
着くまでに暫く時間も掛かりそうだしこの辺で話しておくか。
「これは大嶽丸っていう僕の身体の中に宿る妖怪の力だよ」
「大嶽丸?妖怪?もっと詳しく話しなさいよ!」
芹那は興奮しているのか僕の背中の上で動き出した。
「分かったよ。ちゃんと説明するからあまり動かないでくれるか?芹那が動くと泳ぎ辛いんだ」
「じゃあしっかり説明しなさいよ」
そう言うと動きはおさまった。
「僕がまだ母のお腹の中にいる頃の話なのだけれど、家で母がうたた寝をしていると大嶽丸の声が聴こえたらしい」
「ふんふん、それで?」
芹那は僕の背中の上にいるのでどんな顔をして聞いているのか分からない。
「それでお腹の中の僕が大嶽丸にとって丁度いい器という事で僕の身体に宿ったんだ」
「ふんふん、それでそれで?」
「その大嶽丸には自然現象を自ら起こす力があって、その力を僕自身が僕の身体を通して使ってるんだが理解できたか?」
「…完全には理解できないけれど大筋わかったわ」
「今はそれくらい理解して貰えればいいよ」
「でもキキってずるいわね。頭が良くてお金があって、妖怪の力まで使えるなんて」
「なるほどな。そういう捉え方もある訳か…」
「いいえ、そうとしか捉えられないわ!」
「……」
また芹那が興奮して動くと困るのでしばらく黙って泳ぐことにした。
どれくらい進んだのか分からなくなってしまったが目的の海底谷に無事に到着。
腰に着けたポーチから一つの瓶を取り出す。
これは女王様に密かに貰っていた女王のフェロモン入りの瓶なのである。
「ねえ、それって何?」
芹那はこの瓶の存在を知らなかった。
「これは女王の間を出る時に女王様から貰ったんだ。この付近にもし男の人魚が居れば、このフェロモンに引き寄せられて姿を現すかもって言ってたよ」
「ふ~ん。上手くいけば探す手間が省けるかもね」
僕は瓶の蓋を開け、そのフェロモンをばら撒いた。
ばら撒かれたフェロモンはキラキラしていて、気の所為かも知れないが何だかいい香りがした。
そのキラキラしたフェロモンは海底谷の暗闇の中へゆっくりと落ちて行く。
「これで準備はOKだ。あとは暫く何かして暇をつぶそう」
「いいわ。じゃあクイズでも出し合って遊びましょうよ」
深い海中の中でクイズか…
こうして前代未聞のクイズ大会が、海中で暫くのあいだ行われたのであった。
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