城下町ミシルはすっかり暗くなって夜を迎え、ミアはシャナンに言われた飲食店ヴェルに来ていた。
店内に入ると先に来ていたシャナンが声を掛ける。
「おーい、ミア!こっちこっち!」
呼ばれたミアがシャナンを見つけて正面の席に座った。
「シャナン兄ちゃん早かったんだね。ごめん」
「いや、俺もさっき着いたばかりだから謝らなくて良いよ」
シャナンの外見と口調には少し変化があったが、人柄は12年前と変わりが無いようである。
「ここは俺の奢りだ。どんどん好きな物を注文してくれ」
「本当に良いのかな~、わたしこう見えて食べる時は底無しに食べちゃうよ」
ミアは冗談めかして言ったが、事実身体に似合わず結構食べる口だ。
「構わないさ。今は統括長やってるからそれなりに貰ってるんだぞ」
などとシャナンも返す。
互いに懐かしさが込み上げ暫くは想い出話に花を咲かせた。
途中から話題は明日の闘技大会に変わって、シャナンが真剣な顔つきになる。
「ミア、君がこの12年間でどれほど強くなったのか知らないけど、中には人を殺すことを生業とする者もいる。十分注意するんだ」
シャナンの忠告を真顔で聞いたミアが少しの笑みを浮かべて言う。
「心配してくれてありがとう。でも、みんなが心配するほどわたしは弱く無いんだけどなぁ」
「そうか、それなら安心して観戦させて貰うよ。それとこれは最高機密事項なんだけど…」
顔をミアに近づけ声のボリュームを下げて話す。
「今回はアルディア王主催の闘技大会だという事は知ってるよね。でも、大会を開いて国を盛り上げるという趣旨とは別の目的があるんだ」
ミアも声の大きさをシャナンに合わせる。
「別の目的って何?」
「絶対に人には言わないでくれよ。ミアだから教えるんだ」
「うん、大丈夫。絶対誰にも、レクルにも言わないと約束する」
「よし。実は隣国のルザムがいよいよアルディアに戦争を仕掛けて来るという確かな情報が入手されたんだ」
「…戦争…」
魔物との戦いには慣れたミアだったが、国対国の戦争など想像出来なかった。
「一歩間違えば多くの人の命が奪われるのが戦争だ。隣国ルザムは意図的にそれを起こそうとしている」
ミアの表情が重くなる。
「それってどうにか防げないものなの?」
「俺に考えがあるんだけど今は無理だ。だからその考えを実行したくて王に闘技大会の開催を申し出たんだよ」
「それって、闘技大会の発案者がお兄ちゃんだったって事?」
「そういう事。闘技大会に集まって来る優秀な人材を厳選して、特殊部隊を組織するのが本当の目的なんだよ」
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