ミアの予想ではトーラムまであと1時間も進めば着く予定だった。
バセマラに乗ってまた風景を眺めながら道を進んでいると、乗っているバセマラが不意に話し掛けて来る。
「ミア、いい加減オレに名前を付けてくれないかな?」
バセマラは家畜をしている老夫婦から昨日ジーナが譲って貰い、家に連れて来た際にミアは名前を付ける約束をしていたのである。
「ごめんごめん。でも前から付いてた名前とかは無いの?」
「付いてたけど前の名前は余り好きじゃない。それにオレは新しい飼い主の君から貰う名前が欲しいんだ」
「なんだか訳ありが有りそうだけど…ん〜まあいっか。じゃあ考えるから少し待ってて」
そう言ってミアは少し難しい顔をして本気で考えていたが、パッと思いついたのか晴れた表情になりバセマラに言う。
「バセマラ君、今思いついたんだけど良いかな?」
「ミア、その「バセマラ君」って言うのが以前の飼い主から呼ばれていた名前なんだよ」
「げっ!?そうだったんだ。えっと、それはそれで味があるんじゃない、かな…」
「フォローはしてくれなく良い。で、オレの新しい名前は何だい?」
「あなたの新しい名前はケインよ。気に入ってもらえると嬉しいなぁ」
「…………」
バセマラが歩く脚を止めて黙っている。
「もしかして新しい名前が気にいらなかったかな?」
「…いや、感動して言葉が出ないだけ。ケイン。良い名前だなあ、ありがとう」
「わたしも喜んでもらえて嬉しいわ」
ケインはしっかりとした新しい名前を付けられ喜び過ぎて、ミアを背中に乗せているのも忘れて飛び跳ねた。
「ちょ、ちょっとストップ、ストッ〜ップ!」
ミアの声にようやくケインが気付き静止する。
「ごめん、はしゃぎ過ぎた。ミアのために頑張るね」
「改めてまして、よろしくケイン」
ケインがそこから元気に走り続け、予定より早くトーラムの町に辿り着いた。
トーラムは川が近くを流れ、平地にある町だった。
人口は3万人くらい、面積はペタリドの3倍ほどであろうか。
「大きな町ねぇ、人も多そうだわ。何だか都会って雰囲気がする」
いつの間にかバックパックの中に入って、顔だけを出したレクルが言う。
「ボクは自然が多くて静かなペタリドの方が好きだな」
「もちろんわたしもペタリドの方が好きよ。でもこういった町もたまには良いんじゃない?」
「はいはい。暗くなって来たし、先に宿屋を見つけない?」
「そうねぇ、無駄遣いせずに出来るだけ手頃な宿屋を探しましょ」
少し歩いただけで3件の宿屋を見つける。
その中でも手頃そうな宿屋を決め、ミア達は一泊したのだった。
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