よくよく考えればテレポートボックスの中に入ってしまうと実験の説明を録画できないではないか!?
そう思った僕は入る前にできるだけ説明する事にした。
「これが僕の造ったテレポートボックスという転送マシンだ。この中に入り、設置してあるコンピュータに行きたい場所を入力してスタートボタンを押せば、指定した場所にこのマシンごと瞬時に移動する筈だ」
いかん!カメラ慣れして無いので棒読みになってしまっている。
「因みに映画で出て来るシーンのような転送先の壁に融合してしまうトラブルも考えられるが製作時に対処済みだ。転移先で個体を避けるようシステムに組み込んである」
お、少しずつ話し方が流暢になって来たぞ。
「仮にハエなどの生物がルームに混入した場合も大丈夫である。その根拠はテレポートボックス自体とルーム内の物質や生物も纏めて転送するという原理に基づく」
このまま調子に乗ってマシンの製作過程まで話しそうになったので自粛して切り上げる。
「ではテレポートボックスに入り転移実験を始める」
最後にそう言ってテレポートボックスに入りドアを閉め、コンピュータに転移先を入力した。
記念すべき初めての転移先は僕の実家である。
もしアバウトに転移先を指定した場合は、コンピュータに内臓されている人工知能がベストな場所を選択して転移されるシステムだ。
命の危険性もあるこの実験。
スタートボタンを押そうとする僕の手が震えた。
「自分を信じろ!」と心の中で叫びスタートボタンを押す。
テレポートボックスが直下型の地震が起きたかのように揺れる。
耳には「キーーーン」と高音の音が響き、徐々に無重力空間にいるような感覚になる。
「ブン!」という音と共に僕の意識は途切れた。
暫くして目が覚め咄嗟に腕時計を見る。
恐らく意識が途切れてから5分ほど経過していた。
意識が途切れてしまう事は想定内だったけれど、5分という時間は想定外である。
僕は身体のあらゆる部分が大丈夫かを確かめた。
どこも問題は無さそうなので安心する。
ルームの設備や道具も変化が起きていないか確かめたが転移前と変わりない。
一番の問題は実家に転送されているか否か。
内心ビクビクしながらドアを開けたその先には…
慣れ親しんだ実家が見え成功を確信する。
「やった!凄いぞ成功だ!」
僕は自然にガッツポーズしていた。
「キキ兄!?何が起こってるの!?」
妹の小桜がモンスターでも見たかのような顔をして僕に問う。
テレポートボックスから僕が出て来るところを目撃したのかも知れない。
妹に会うのは1年ぶりくらいだった。
「よー小桜!元気だったか?」
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