僕の運命を大きく変えるその日が遂にやって来た。
7年もの歳月をかけて完成したマシンには「どこでもドア」ならぬ「テレポートボックス」と名付けた。
「どこでもドア」と名付けなかった理由について少し説明しよう。
ドアは確かに在るのだけれど、イナバの物置くらいの大きさのルーム(部屋)に付いていて、外から一旦入って中で操作するという形だ。
構造的には「ハウルの動く城」に登場するドアに近いものとなっている。
つまり、この「テレポートボックス」は飛ばず歩かずで固定された「動く城」の縮小版なのだ。
テレビの歴史を例にすると分かりやすいだろう。
一般家庭に備わり出した頃のテレビはブラウン管を使用した分厚い機器だったが、今となっては大きい画面で大袈裟に言ってしまうとペラペラである。
だからと言っては何だが今の僕の技術では「どこでもドア」の様なテレポートマシンはどうしても造れず、この様な大掛かりなマシンとなり、「テレポートボックス」と名付けたのである。
「完成」という言葉を使ってしまったが、実は僕の理論上で「完成」しているだけで、実験して成功した訳でもなかった。
なので今から実験しようと思う。
ドキドキしながらドアに手を掛けてふと気付く。
僕には「博士、博士〜」とか言って実験の手伝いをしてくれるような助手がいない。
実験の手伝いは不要だが、成功させた時の証人がいた方が良いのではないだろうか?
それにもしトラブルが発生した場合に第三者がいた方が処理の選択肢が増える筈である。
スマホを取り出し芹奈に電話を掛けた。
3回の呼び出し音で芹奈が電話に出る。
「もしもし、赤城です」
「あ、芹奈か?急でアレなんだが今からマンションまで来れないか?」
「いいわよ」
それだけ言うと僕が返す前に電話を切られた。
相変わらずのサバサバ感。
僕はスマホを閉まって今度は乙葉の部屋に向かいドアをノックした。
「はーい、ちょっと待ってて〜」
乙葉がドアを開けて顔を出す。
「どうしたの?」
「遂にアレが完成して今から実験するんだ。もし時間があれば立ち会ってくれないか?」
「え!?アレが!?それだったら時間が無くても立ち会うわよ」
「ありがとう。芹奈ももう少ししたら来ると思うから、20分後に研究部屋に来てくれ」
「了解です!楽しみ〜」
僕は20分の間にビデオカメラの準備とマシンの再調整を行う。
テレポートボックスを前にして僕を含めた3人が集まった。
乙葉に「一部始終を逃さず撮ってくれ」とビデオカメラを渡し、芹奈にはテレポートボックスの外回りにあるボタンの説明をする。
僕は乙葉の持つビデオカメラに向かって言った。
「いよいよ世紀の大発明の実験開始だ!」
コメント