場面はセトが亡くなってから12年後のペタリドの町へと移り変わる。
「お母さん、行って来まーす!」
「行ってらっしゃい。気をつけるのよー!」
ミアはジーナの愛情を受けながら、17歳の美しく活発な少女に育っていた。
15歳の頃から山で狩をするようになり、今ではすっかり板についている。
この日はエルガ山で狩をする日だった。
12年前の魔物の出現から、狩人が山に入る際は最低でも2人1組でなければならないというルールがある。
しかし、ミアに関してだけはこのルールは適用外となっていた。
何故ならミアは、ペタリド町民全員が納得するほど屈強だったからである。
弓の腕もさることながら、剣の腕も相当なものだった。
弓の腕前は名手であった父のセトを超え、剣の腕は剣聖シャナンに推されたバロックを遥かに凌ぐ剣術を身に付けていた。
「レクル!今日は大物を狙うわよ!」
ミアは狩をする時もポッサルのレクルを連れていた。
ポッサルの寿命は長くて25年と云われている。
レクルは人間でいうところのいい大人の年齢だった。
狩ではこのレクルの鼻が大いに役立ってくれる。
動物の言葉が分かるミアはレクルと会話が出来るので、息の合う良いパートナーとなっていた。
「ミア、あっちの林の方からポルク(猪系の動物)の匂いがするよ」
「よし!行ってみよう!」
ミアは運動能力抜群で特に脚も速い。
ペタリドでは年に一度、運動能力を競う競技大会が開かれているのだが、13歳から出場している短距離走と長距離走では誰にも負けた事が無い。
レクルの示した林に到達し程なくポルクを見つけ出した。
だがミアの表情は曇る。
「見つけたのは良いけど…残念。子供を連れてる。あれは諦めましょ」
自分の中で子連れの動物は狩らないと心に決めていた。
「相変わらず優しいなぁミアは」 レクルはそんな優しいミアが大好きだった。
暫くその林で獲物を探していると、レクルが何かを感じ取り警戒を始める。
「レクル、魔物なの?」
「うん、でも今までに遭遇した魔物とちょっと違うかも」
周りを見回すが何も見当たらない。
この12年の間で魔物の生態系は随分と変わった。
単独行動する魔物も増えていたのである。
警戒しながら林の奥へと進んだところで…
「ガサッ」
音のした方向に素早く視線を向ける。
「見つけた!黄色い魔物。大きい…」
それはウガルルムと呼ばれる獅子系でイヴァイより凶暴で強い魔物である。
ミアは見つけた瞬間から既に弓を構えていた。
「先手必勝!」
「ビュン!」と音をたてて放たれた矢が弧を描くのではなく、一直線に猛スピードで飛びウガルルムの左目を射抜いた。
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