芹奈と一緒にマンションに帰り着いた。
彼女が言うには学校からの方向は下宿先とほぼ同じで、ここから下宿先まで1kmも離れて無いらしい。
マンションに入る音が聴こえたのか、乙葉の部屋から声が聞こえた。
「お帰りキキ〜、お昼ご飯をテーブルに用意してあるから食べてね」
「ただいま。分かったありがとう」
顔を出さないのはきっと漫画を描くのに忙しいのだろう。
このまま乙葉の部屋をスルーしようとしたのだけれど、芹奈がそれを許さない目を僕に向けた。
しょうがないないなぁ…
「コンコン」と乙葉の部屋のドアをノックする。
「乙葉、ちょっと良いかな!」
「…ちょっと待ってて」
ドアを少し開けて顔を出す乙葉が芹奈を見て驚く。
「え!?どちら様でしょう?」
僕は嫌々ながら芹奈を紹介する。
「一応紹介しておくと、小、中、高と一緒で同じクラスになってしまった赤城芹奈さん」
「赤城です。下宿先も近いので今後もよろしくお願いします」
「赤城芹奈さんですね。了解しました。あの、今は漫画がのってるのでこれで失礼します」
「ガチャリ」
あっさりとドアを閉めてしまった。
「キキ、さっきのトゲのある紹介の仕方はなに?」
「え、トゲなんてあったか!?ごめんごめん」
トボけてダイニングキッチンまで誘導する。
「高そうなマンションねぇ、ホントに羨ましいわ」
「ああたまたま良い物件があって良かったよ。ところで君も食べてく?」
1億の物件をキャッシュで購入した事は言いたくなかったので話しをすり替える。
「ありがたいのだけれど、今日は結構よ。下宿先の人が準備してくれてるのを無駄にする訳にはいかないのもの」
全く気遣いが出来ない人間だと思っていたがそうでも無いようである。
「そろそろ帰ろうかしら」
「そうか、そうだな。下宿先の昼食も待ってるしな」
僕にはこれから山ほどやらなければならない仕事があった。
だから芹奈には悪いが早く帰って欲しい気持ちがあるのは否めない。
「たまには遊びに来ても良いかしら?」
「ん、たまになら…」
これがいけなかったのかも知れないが、芹奈はこの先マンションに入り浸る事が多くなってしまう。
「じゃあまた明日」
「ああ、また明日」
見送ったあと昼食をさっさと済ませて仕事に取り掛かった。
さて、物語はここまで過去のエピソードを語って来たのだけれど、高校一年生のエピソードは端折らせてもらって、そろそろ高校2年生で17歳の最初の場面に戻そうと思う。
時は2020年7月、高校2年の夏休みに突入したばかり。
高校2年生になりクラス替えもあったのだけれど、なんの因果か赤城芹奈とまたも同じクラスになってしまったが、そんな事は特に重要ではない。
僕の人生において何より重要な事が起きようとしていたからだ。
そう、7年間にも渡る研究がいよいよ実を結ぼうとしていたのである。
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