シャナンの一行は麓で執った編成を仕切り直して探索を続けた。
穏やかに見えるが魔物が潜む山中を1時間ほど歩いたが何も発見出来ず全員で昼食を摂る。
セトはシャナンの隣に座り、ジーナの手作り弁当を広げて美味そうに食べ始めた。
近くに座っていたワッドがシャナンに質問する。
「シャナン様、この魔物ってやつは他の国や地方にも侵入してるんですかい?」
ワッドはベテラン狩人だが好奇心旺盛な性分から、魔物の情報を出来るだけ多く引き出す腹づもりでいた。
「アディア城に集まる情報によるとどうやらそうらしいです」
普通なら剣聖七葉の剣聖が、平民とこんな気さくに会話をする事は有り得ない。
シャナンは身分に関係なく誰であれ公平に人と接する珍しい人間なのである。
「じゃあアディア王国の別の地方にも応援部隊が行ってるんですな?」
「そうですね…応援要請は20件を超えていて、中には500匹以上の魔物が侵入して来たという町もあるんですよ。現状で既に5,000人以上のアディア城の将校や兵士が各地へ派遣されてます」
ワッドが想像していたよりも事態は深刻そうであった。追加で質問して良い内容かどうか迷ったが、好奇心が優ったのか訊いてしまう。
「確かアディア王国の隣国ルザムとは紛争が起きつつあると聞いた事があるんだが、そんなに兵士を派遣に出すと不味いんじゃあないですかな?」
シャナンの顔が少しだけ引き締まり答える。
「隣国ルザームとは長い間冷戦状態です。紛争が起きつつあるといった話は今に始まった事ではありません。ですが、アディア王が本国の城が手薄になってはならないと考え、今回のペタリドへの派遣は10人だけとなってしまったのです」
「アディア城にとっても大変な事態なんですな…」
ワッドは何だか申し訳ない気持ちになった。
1匹でも魔物が発見された土地には、最低でも数手の魔物が50匹は存在するという説がアディア城では有力となっている。
従来通りの対応であれば、今回のペタリドへの派遣は50人くらいが妥当であったと考えられた。
ペタリドへの派遣人数から、魔物の大量発生が要因で国の苦しい台所事情が伺える。
「あ、でも心配は要りませんよ。僕が兵士50人分くらい働きますから」
シャナンは冗談のつもりで笑って言うが、その場の全員は冗談には聞こえていなかった。
その場の誰もがシャナンなら100人分の働きを軽くやってしまいそうだと思っていたからである。 昼食を30分程で済ませた一行は、また体制を整えて探索を再開した。
そこから1時間ほど歩いたところでセトがシャナンに伝える。
「あちらの方向に飛んでいるガーゴイルが数匹見えます」
魔物の発見がパーティに緊張を走らせた。
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