そんな小学生らしからぬ小学生を続けていたら、気付けば10歳の誕生日を迎えていた。
父と母が「誕生日プレゼントは何が良い?」と毎年訊いてくれるのだけれど、僕は「ありがとう、でも気持ちだけで十分だよ」と毎年返す。全くもって子供気ない。
日頃から欲しい物は自分の報酬で購入していたので、特に誕生日だからといって欲しい物は無かったのだ。
両親にしてみれば喜ばせ甲斐のない、つまらない子供に映っていたかも知れない。
誕生日の夜は決まって母が作る手料理の豪華版とケーキが食卓に並ぶのだけれど、これが堪らなく美味しくて好きだった。
僕は腹いっぱい料理を食べて満足そのものである。
まだ食卓を離れずにいると、父が綺麗な包装紙で包まれた箱を僕の目の前に置いた。
「ほれ、誕生日プレゼントだ。キキは毎年何も欲しがらなかったけど、今年はお母さんと一緒に選んだんだ」
「開けてみて、キキ」
「あ、ありがとう。じゃあ開けるよ」
包装紙を丁寧に解いて箱のフタを開けた。
中に見えたのは「ドラえもん」のコミック全巻セット。リアクションに困った。
そっと両親の顔を見ると、僕のリアクション待ちの顔になっている。
実はこの時点で、僕は生まれてから一度もマンガを読んだ経験が無かった。家に元々マンガが一冊も無かったのも理由の一つだけれど、根本的に興味が湧かなかったからだ。
両親に悪い気がしたが演技する。
「う、うわ〜ドラえもんだ〜、これ読みたいってずっと思ってたんだよね〜」
我ながら下手すぎる演技、笑顔も引き攣っていたかも知れない。上手くいっただろうか…
「そうか!読みたかったのか!良かったな〜お母さん」
「本当に良かったわぁ、要らないって言われるかもって心配してたのよ」
鬼のように喜ぶ両親。喜んで頂けて何よりです。
後で感想を訊かれること間違い無し、と思いその夜に1巻から読み始めた。何と両親想いの子供だろう。
しかし、義務的に読み始めた「ドラえもん」だったのだけれど、僕の予想に反していつの間にか夢中になり、のび太のように寝転がって読んだ。
結局、徹夜して全巻を読み終えた僕の感想というか出した結論は、「どこでもドアを作ってみる!」になっていたのである。
使うと作るでは全く違うし、そもそも前例の無い物を作るというのは、何から始めれば良いのか皆目検討がつかない。
ネットで調べてみると、昔から考察はされているのだが、中々進捗しないような内容の記事ばかりだった。
一つ分かったのは取り敢えず形はどうあれ、瞬間移動の実現化を達成しなければならないという事である。
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