セトとミアは岩風呂で本来遊ぶ場ではないがたっぷり遊んで風呂から上がり、火照った身体をタオルでざっと拭き寝巻きに着替えた。
ジーナの作った料理の香りが漂いミアが反応する。
「お母さんいい匂いがするね。今夜の夕食は何かな〜?」
「山菜とキノコのシチューとラゼムの薫製よ」
キッチンに並べられた料理を見てミアがはしゃいでいる。
「美味しそ〜早く食べよ早く食べよ」
テーブルに手を掛けピョンピョン跳ねた。
「分かったから椅子に座りなさい」
セトもキッチンに移動しミアを持ち上げて椅子に座らせた。
三人が揃っていつもの祈りを捧げ食事を始める。
因みにで側で食事をしていた。ポッサムの主食は木の実だが、野生のポッサムは肉や魚もいけるらしい。
食事が少し進んだところでセトが魔物の件で話し出す。
「驚かないで聞いて欲しいんだが、山の帰り道で魔物に遭遇したよ」
「え!?」
ジーナは驚かないでと言われたが驚いた。前振りがあっても、想定外の事を不意に聞けば人は大抵驚いてしまうものである。
「その魔物ってミアが話してた魔物なの?」
「多分そうだ。薄暗くてハッキリ見えたわけじゃないが、ディルの3倍くらいの大きさで赤く光る眼をしていたよ。魔物が走って突っ込んで来たから、弓矢を一発撃ち込んだら逃げて行った」
ジーナは瞼を目一杯広げて更に驚く。
「それは凄いわね。でもあなたに怪我が無くて本当に良かったわ」
ミアは食事に集中していて夫婦の会話を聞いていない。
夫婦は、その美味しそうに食べている姿を温かい目で見つめた。
目線にミアが気付く。
「お父さんとお母さんどうしたの?」
「何でもないよ。美味しいかいミア?」
「うん、とっても美味しいよ!」
満面の笑みを見せるミア。
夫婦は魔物の話をやめて笑顔を取り戻し、食事を楽しんだ。
その夜はもう魔物の事など忘れて幸せな日々が続くよう願いながら家族はぐっすりと眠る。
だが、次の日に事件は発覚した。
山で狩人の一人が何者かに殺されたと、朝から町中が騒がしくしている。
ペタリドは長年事件らしい事件もない平和な町だった。だからこそ、こう言った事件に人々は異常なくらい敏感なのである。
被害者はセトが先日会って話をしたリゲール。
昨日リゲールは家に帰らず、心配した妻のミルシェが今朝届け出て町の捜索隊が出動し、ダリガ山でリゲールの死体を探し出して現在の騒ぎに至っていた。
捜索隊は町民で組織されていて、セトも捜索隊の中にいた。死体を現場で見た時は信じ難い想いもあり酷くショックを受けた。
死んだリゲールの姿は、ポッサムやタヌーの死骸のやられ方と酷似していたのである。
明らかに魔物の仕業であった。
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