ダリガ山全般に言える事だが、山道は舗装されている場所は皆無で歩き辛い。
それでも人がよく通る道は、土が踏まれて固く雑草も少なかったりして他の道よりも歩き易い。
セトは動物などが利用する獣道を歩き、いつも利用している人の通る道を目指していた。
その途中、道の傍らに1mほどの灰色の何かが転がっているのに気付く。
近寄って確かめると、タヌー(狸系)と呼ばれる動物の死骸であった。
死骸の肉と内臓の殆どが無くなっている。一昨日発見したレクルの親ポッサムと同じく無惨な姿だった。恐らく同一の捕食者にやられたのであろう。
この位置はポッサムの死骸があった場所より遥かに町に近い。
セトは自分の中で禍々しい不安が膨らんでいくのを感じていた。
「パキッ」
小枝の折れる音が背後から聴こえ慌てて振り返る。
20mほど先の木の裏に怪しい影が蠢いて見えた。
赤く光る目と視線がぶつかる。
セトはゆっくりとバックパックに掛けてあった弓を構え、矢筒の矢を取りその影に狙いを定めた。 ジーナがミアから訊いて話してくれた魔物の姿とほぼ一致する。
周りが薄暗く見え難いが、ディルを二回りほど大きくした姿で目が赤く光っていた。
魔物と対峙したのはこれが生まれて初めのセトは、狙いを定めつつ対処の方法を考えている。
「ヴァウッ!」
素早い動きで魔物が走って突っ込んで来た! 最初から狙いを定めていた頭に照準を合わせ矢を放つ。
「キャイン!」
少しズレたが魔物の右目に命中し、魔物が地面に転がる。
素早く次の矢を取り狙いを定め放つ。
しかし今度は、魔物が横にジャンプして避けられ、矢は空を切り地面に突き刺さった。
魔物は移動した先から睨み付けている。
セトは既に3本目の矢を取り狙いを定めている。
数秒睨み合うと、諦めたのか魔物は森の中へ走って逃げていった。
「ふぅ、何とか命拾いしたな…」
僅かな時間だったが、得体の知れない相手との攻防で身体の疲労感はピークに達していた。
身体が重く感じ歩みは遅くなったが、魔物と遭遇した場所から1時間ほどで家に帰り着く。
辺りはすっかり暗くなっていて、家の灯りを見たセトはホッと胸を撫で下ろした。
「お父さんお帰り〜!」
玄関のドアを開けるとミアが走り寄って来てセトの足に抱きつく。
「あら、お帰りなさいあなた。今日は遅かったのね」
「ただいま。帰り道で珍しい動物を見かけて遅くなったんだよ」
ミアの頭を撫でながら話す。
「その話は風呂に入ったあとで食事の時にでも話すよ」
「分かったわ。お湯は沸かしてあるから、ミアと一緒に入ってくださいな」
それからミアと一緒に岩風呂に入り、無事に帰って家族と共に居られる幸せを噛み締めるセトであった。
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