レクルが家族に迎えられた日の翌朝になる。
星の守護者である世界樹から生まれたミアだったが、この5年間は本当に普通の子供のように育っていた。
だが、この日を境にミアに変化が起こるのである。
セトは朝食を摂り、いつものように狩に出かけ、ジーナは食事の片付けや洗濯物に取り掛かった。 ミアは家事を手伝おうするが、まだ幼いため皿を割ったり、服を汚したりしてしまうのでジーナに丁重に断られる事が多い。
なので今日は朝から庭でレクルと遊んでいる。
初めは警戒して怯えていたレクルだったが、餌を与えたり少しずつ触れ合っていると、一晩ですっかり新しい家族に慣れてしまった。
暫くしてジーナが家事の合間に外に出て様子を見ると、ミアがしゃがんでレクルと向き合い泣いていた。
転んでケガでもしたのだろうか。心配になり声をかける。
「ミア、どうして泣いているの?」
「…あのね、レクルのお母さん、魔物に殺されたんだって」「え!?」
ミアの言った内容でジーナに二つの疑問が浮かぶ。
一つ目は、レクルの親ポッサムが死んでいた件はジーナもセトも教えていない。なのにミアは何故知っているのか?
二つ目は、魔物という単語である。この世界に魔物は存在していると伝わっているが、少なくともペタリドの街や付近の山々では、ここ数十年間で事件や目撃した者は一人も居ないのだ。
「レクルのお母さんが殺されたって誰から聞いたの?」
少し涙の残ったミアが答える。
「…あのね、レクルが話してくれたんだよ」
「!?」
ジーナは更に困惑してしまった。
「レクルの言ってる事が分かるの?」
「うん、人の言葉とは違うけど言ってる事は分かるよ」
「そう…」
5年前、ミアを授かった時の状況が普通では無かった。そこから考えれば、ミアが普通の人間とは違うところがあったとしても何ら不思議ではないのかも知れない。
「さっき魔物って言ってたけれど、どんな魔物だったかレクルに聞いてみて貰える?」
怖がらないように優しい口調でお願いしてみた。
涙の止まったミアは、レクルに話しかける。
「レクル、わたしのお母さんがね。どんな魔物だったか教えて欲しいんだって」
普通に人の言葉で話していた。
「キーキーキューキー」
ミアは相槌を打って理解しているようだが、ジーナには動物が鳴いているようにしか聞こえない。
「ディル(狼系の動物)に似てたけど、ディルよりずっと大きくて眼が赤く光ってたって言ってる」
どうやらミアが動物に話しかけると、動物の言葉として動物には聞こえ、動物の話す言葉(鳴き声)がミアには人の話す言葉に聞こえるようだ。
「…分かったわ。ありがとう」
腕を組んで考え込むジーナであった。
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