一輪の廃墟好き 第99話~101話「けんもほろろ」「微賞賛」「上の中」

一輪の廃墟好き

 きっと彼女も露天風呂に目をつけ、同じように歓喜しながら入浴していたのだろう。

「おっ、おう助手。この温泉は想定外に大当たりだったな…って、君はなんちゅうことをしているんだ!?」

 彼女は竹製隔て板(仮)の最上部からこちら側に腕を出し、当然何も身に着けていない柔肌の肩がけんもほろろに露呈している。

 いや待て、さり気なく使ってしまったけれど、「けんもほろろ」ってどんな意味だったっけ!?
 僕は自身の優秀な頭脳を高速で回転させ記憶を呼び戻す。
 
 けんもほろろ…たしか、頼みや相談などを冷淡に断るさま。とりつくしまもないさまとかいう意味だったような気がする。
 うむ、今回のケースに当てはめれば、「近からず遠すぎる」といった具合だな、うん。

 嗚呼、一瞬とはいえまた無駄なことに我が優秀な頭脳を使ってしまった。

「あっはっはっはぁ~♪一輪、そんな顔をしていやらしい想像を膨らませてるんじゃないでしょうねぇ?」

 的外れも甚だしい。
 だがそんな風に思われているというのは僕の薄っぺらなプライドが許さない。と言いたいのは山々だったけれど、彼女が言ってしまったことによって頭の中が勝手に暴走し、竹製隔て板(仮)の向こう側、いわゆる裸体の助手の姿を想像してしまったではないか!?

「若い娘が屋外で素っ裸とは呆れてしまうぞ!それにどこからか隠し撮りされてる可能性もゼロではない。さっさと中へ戻るんだ」

「ほぉ~、一応気を遣ってくれるんだぁ。じゃあもう一回身体を温めてから温泉を出るね♪」

 やや焦燥気味の僕が、訳の分からない言葉を並び立て彼女へ引っ込むよう促すと、彼女は上機嫌で竹製隔て板(仮)から降りたのだった。
 無論、若い娘以外なら素っ裸で屋外はありなのか?とういう疑問や、隠し撮りするような輩が果たして井伊影村に存在するのか?などの疑問というか失言は、僕の心の中だけで密かに反省と懺悔を捧げるので悪しからず。

 「温泉物語」、否、僕が主人公であるなんちゃってミステリー小説「一輪の廃墟好き」が、敢えて口に出すほど大してめでたくもないのだけれど、「ようやく」と云うか「とうとう」と云うか、まったりと100話目を迎えてしまったらしい。

 どこかの誰かさんが本来は一つの物語を一日1000文字、三か月で10万文字のペースで書き上げるつもりでスタートしたらしいのだが、いつの間にやらサボリぐせがついてしまったらしく、3カ月をとっくに経過しても完結していないという有様である。

 まぁサボリぐせは良くないとしても、「番外編」などという卑怯な手を使ってでも毎日欠かさず何かを書き継続しているという点においては、「どこかの誰かさん」を微賞賛してあげても罰が当たるようなこともないのではあるまいか?

 温泉の効能の影響か、はたまた単にのぼせてしまっただけなのかは知れた事ではないけれど、唐突に僕の思考が物語と無関係な方向へ向かってしまったのは、物語上の誰の所為でもなく、「どこかの誰かさん」のみの所為であることは疑いの余地が微塵もないといったところであろう…

 
 さて、助手の未桜との竹製隔て板(仮)での一件を終えたあと、岩造りの露天風呂へ再入浴し、10分ほどリラックスして身体の疲労を癒すことが出来た僕は、男らしく「ザァバッ!!」と立ち上がり更衣室へと向かったのだった…

 改めて言うのも何だが、僕は日頃から上の中くらいのイケメンだと自負している。

 上の上だと言い切ってしまわないところに、僕が決して鼻につくようなナルシストではないという事実と、ささやかなる哀愁を感じ取っていただきたいのだけれど、そんな上の中のイケメンである僕をもってしても、男が更衣室、もとい脱衣場で服を着用する様を事細かく語っても、仕方が無いというか面白味も何にもあろう筈もない。

 というわけで、僕達はたった今しがた「民宿むらやど」へ戻って来たところであった。
 
 玄関で若女将(仮)が素敵な笑顔で迎えてくれる。

「お帰りなさいませぇ。如何でしたか?井伊影温泉は?」

「いやぁ、本当に最高でしたよ。井伊影村にあんな素晴らしい温泉があるなんて羨ましい限りです」

 僕は素直に思ったままの感想を述べ、続けて隣にいる未桜も温泉について何か言うものだと思いきや。

「あのぉ、すみません。お腹がペコペコで死にそうなんですぅ、お料理の方はぁ?」

 井伊影温泉から出た直後は、死人が生き返ったかのように元気だった彼女が、また疲労しきった顔をして一応申しわけなそうに訊いた。

 若女将(仮)が待ってましたと言わんばかりに即座に応じる。

「あらあら、御心配には及びません。ちゃ~んと準備してありますよぉ♪部屋に荷物を置いて奥の居間までお越しください」

 僕達は居間の場所の簡単な説明を受け、荷物を置きに階段を上がり二階の部屋へと向かったのだった。

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