工事契約会計における原価計算の実践
(まとめノ9からの続き)
(3) 実行予算による工事原価総額の見積り
原価比例法における計算式の分母である工
事の見積りによる工事原価総額は、いわば
事前における原価計算ともいうべきもので、
一般的には受注の確定後に作成される個別
の「実行予算」に基づき把握するものと理
解される。工事進行基準の適用において、
見積りという推定の要素や企業の会計方針
の設定に関する判断を多く含む課題の一つ
である。
請負工事に関係する企業においては、受注
獲得のための営業活動(公共工事への入札
を含む)において、まず発注者との契約価
格を提案する役割をもつ金額を積算という
技法を用いて工事原価総額および受注予定
価格を計算し提示する役割をもつ金額を積
算という技法を用いて工事原価総額および
受注予定価格を計算し提示する。しかしな
がら、この数値は、あくまでも受注決定前
の営業に基づく価格提案であるから、実際
に受注した場合の実行予算とは異なること
が一般的である。
従って、これをもって実際の工事の工事進
捗度を計算するための工事原価総額とする
ことはできない。
次に、受注が確定した場合には、まず現実
に施工する活動の全貌を把握して、かつ施
工の全体を整合的に進行させるための機能
として、実行予算が確定される。
工事進捗度の適用における工事進捗度の計
算において、その分母である工事原価総額
は、おおむねこの実行予算に基づいて算定
されるものと考えてよい。
しかしながら、実行予算は、そのすべてが
見積であるから、適用する企業の体制、工
事の特性などによって、その見積りの精度
にかなりの差異が生ずることがあることを
想定しておくことが肝要である。一般的に
いえば、次のような諸点に留意することが
大切である。
ア.工事原価総額を信頼性をもって見積るた
めの管理体制が適切に提案されていなけれ
ばならない。具体的には、現実に当該工事
の施工管理に責任者として携わる者とコス
ト確定(計算)を専門とする者、並びに工
事の採算管理に係る管理者等の間に、いわ
ゆる内部統制の機能が働く体制が構築され
ている必要がある。それらの合意に基づい
た実行予算であることが確認されなければ
ならない。
イ.企業が受注する工事か各種各様である。
常にオーダーメイドの一品生産であると解
すれば、工事の特性をしっかりと確認する
ことなくして当該工事の実行予算を測定す
ることは不可能である。たとえば、建築工
事と土木工事の実行予算を編成する工事種
類(工種)別の原価要素は異なることはい
うまでもなく、さらに、土木工事であって
も大規模なダム建設工事、海洋における浚
渫工事、橋梁建設工事、比較的に類似の工
法を活用する道路舗装工事、個々に実行予
算の内容は異なっている。各々の場合に適
った予算策定手法が採用されているか確認
しなければならない。
ウ.工事原価総額は、契約し施工に着手した
後、工事の進捗と共に変動することが多い。
施工環境(天候、熟練等)、発注者の要望
の変化などによって変動する。工事原価総
額は、工事の各段階において、適時、適切
に見積りの見直しをしていかなければなら
ない。
以上のように、工事進行基準の適用におい
て工事進捗度を計算するに際して、最も一
般的な手法である原価比例法の工事原価総
額は、このような工事契約会計を進めるた
めに最も見積りの要素を多く含んだ難解な
要素である。十分な体制を確保しての適用
が求められることとなろう。
(4) 期間における発生工事原価の計算
期間における工事原価計算は、既述のごと
く基本は一般に公正妥当で適正な原価計算
に基づくものであるが、特に工事進行基準
の適用に際して留意すべき原価計算処理に
ついて列挙しておく。
ア.工事に関する資材の発生工事原価計上は、
原則として、当該資材の工事現場への搬入
時点とすることが適切である。
建設資材をいかなる時点において発生工事
原価とするかには、施工事情によって異な
る。資材を工事現場で消費した時点、当該
資材に関する作業が完了した時点などの適
切なケースもあるが、現実的な処理として
は、建設資材を工事現場に搬入した時点を
もって、発生工事原価の計上時点とすこと
でよいであろう。なぜならば、一般的な施
工作業においては、資材の現場搬入によっ
て当該作業が開始されるとみなしてよいか
らである。すなわち、工事進捗度の設定に
おけるインプット法とアウトプット法の実
質的な相違が生じないという観点からによ
るものである。従て、資材を工事現場に搬
入したが、特別な事情によって当該作業が
開始されず資材の消費が未了(たとえば現
場の資材置き場で保管)のような場合には、
実質的には未使用の資材であるからこれら
は「材料貯蔵品」として処理される。
また、資材を購入したが常設の資材倉庫等
に保管している場合には、未使用と資材と
して「材料貯蔵品」としておかなければな
らない。
他方、外部制作業者に製造を依頼する特注
品等で未だ物理的に据付けられていない機
器であっても、検収が終わっているものに
ついては、工事進捗度の算定上これを工事
原価に含めることが妥当であると考えられ
ている。これらの機器はすでに工事物件の
仕様書に合致しており工事の履行義務が課
されていると認められるからである。
イ.工事の労務対価である賃金の発生工事原
価計上は、原則として、労務日報に基づく
日々の作業の完了時点とすることが適切で
あると考える。
賃金の支払形態は工種によって様々である。
時間給的な対価を月次でまとめて支払いを
する場合には、経常的にはその会計処理を
する際に発生工事原価の計上がなされる。
この場合、期末に置いて工事進行基準適用
するための処理を施すには、期末時点まで
の発生対価を加算することが一般的と考え
る。ただし、重要性の適用からそのような
差異を計上するに足らない場合、継続性の
適用により一定の処理方法を固定して適用
している場合でそのような差異がほぼ一定
であるような場合には、必ずしも消費の厳
格な適用を要しないことがある。
ウ.専門工事その他の外注工事に対する対価
の発生工事原価計上は、一般的には、当該
工事の完了によって支払金額が確定する時
点であるが、当該工事が突きを跨いで実施
される場合には、可能な限り月末において
支払うべき金額を確定する業務を促進する
必要がある。いわゆる出来高払いの制度で、
月末における要支払金額の確定は、工事の
出来高等に基づいて測定される。
軽微な外注工事で重要性の低いものについ
ては、期末において前述の処理を実施する
方法が適用される。また、外注工事対価の
中に前渡しの分が含まれる場合には、当該
金額は外注費から控除する必要がある。
エ.仮設資材の損耗についての発生工事原価
計上は、基本的には、当該資材の使用を完
了した時点で工事に共用した日数を確認で
きる時点であるが、途中の過程においては、
可能な限り月次においてその原価算入を実
施する。通常の方法としては、損料計算に
よる方式が望ましいが、会計期間の減価償
却を現場共用日数で配分する方法もある。
また、重要性の低い仮設資材で期中にお
いて前述のような方式を採用しない場合
で使用中のものについては、期末時点に
おける当該資材の評価をしてその評価額
を投入費用から控除しなければならない。
オ.建設機械の損耗および保有に係る諸費
用についての発生工事原価計上は、原則
として月次における損料を計算して当該
工事における使用時間や日数に基づく原
価算入を実施する。基本的には、当該機
械の減価償却費、経常的補修費、保険料、
関係税金等を含めた損料計算が望ましい
が、簡易的な機械については、減価償却
費についてのみそのような計算をするこ
とも適当であろう。
また、重要性の低い建設機械で、期中に
おいて前述のような方式を採用しない場
合には、会計期間中に使用した工事に対
して、時間や日数に応じて関係費用を配
分する必要がある。
カ.現場管理費には様々なものがあり、一
部は、前述の建設資材、賃金、外注費、
仮設資材、建設機械に関する工事原価算
入の方式を適用することが望ましいもの
もある。ここでは、その他の一般的な処
理の原則について述べる。
未成工事支出金の中に前払い(前渡し)
の部分を含む費用がある場合には、原則
としてこれを未成工事支出金から控除し
て発生工事原価を計算しなければならな
い。ただし、その前払い(前渡し)の処
理が、定期的もしくは経営的に実施され
ている場合は、この処理を省略すること
も可能な場合がある。
未成工事支出金の中に未払いの部分を含
む費用がある場合には、原則としてこの
未払い分を未成工事支出金に加算しなけ
ればならない。ただし、その未払いの処
理が、定期的もしくは経常的に実施され
ている場合は、この処理を省略すること
ができる。
前払い・未払いの減算・加算修正を省略
する場合には、これを継続して適用する
ことが必要である。
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