一輪の廃墟好き 第31話~第32話「淀鴛龍樹(よどおしたつき)」「物好き」

一輪の廃墟好き

 自己紹介するのに踊り出るは変かも知れないけれど、とにかく助手の未桜が僕と男の間に踊り出た。

「はいは~い♪一輪が遅いのでわたしから言っちゃいますね~♪鈴村未桜23歳こちらの助手やらせてもらってま~す♪よろしくね♪おじ様~♪」

 音符の数が多すぎるし「おじ様」ってなんだよ。どんだけご機嫌なんだうちの助手さんは…

 未桜のお門違いも甚だしい自己紹介を受けた男が、ふと思い出したような表情をして服のポケットから何かを取り出す。

「そうだろうなとは予想していたんだが、やっぱり君が鈴村未桜ちゃんか。ちょっと前に空からこれが降って来たんでねぇ、場所も場所だったんで天使からの贈り物かと思って拾ってみればタグに名前が書いてあるじゃぁないか。はい、持ち主に返せてよかった」

 何ということでしょう!

 男が未桜に渡した物は森に入る前、突然の突風によって吹き飛ばされ諦めかけていたあの帽子だったのです…

「うっわ~!嬉し過ぎる~♪♪♪本当に本当に本当っにありがとうおじ様~♪♪♪」

 未桜があまりの嬉しさに喜び勇んで男に抱きつくかと一瞬肝を冷やしたのだが、何処かの小公女が飛び跳ねて抱きつくような場面の代わりに、男の両腕を掴み上下にブンブンと振り回した。

 それも一二回ではなく何度も繰り返す。

「よっ、喜んで貰えて結構なことなのだが、おっ、お嬢さん、そろそろやめてくれないか?腕が痛くてもげそうだ」

「あっ!?ごめんなさい!嬉し過ぎてついぃ…」

 言われて両手を咄嗟に離して謝る未桜。

「ふぅ…それと「おじ様」という響きは意外なことに嫌いじゃないんだが、俺はまだ35歳で淀鴛龍樹(よどおしたつき)という名前がある」

 画数が多くて大変そうだな…

「ごめんなさい淀さん♪でも本当にありがとうございました♪」

 さて、もう数える気にもならない未桜の謝罪と呼び方は別として、淀鴛さんは僕よりちょっぴり背が高く身体つきが華奢に見えるけれど、刑事をやっている以上は常に身体は鍛えてある筈だ。

 そんな彼が女性に腕を振り回されたくらいで痛がるとは、当然思えなくもなく至って当然であろう。

 何故なら未桜は身体つきこそ極々平均的であったけれど、実際の試合において屈強な男どもをバッタバッタと薙ぎ倒すほどの合気道の達人なのだから。

 ついでと云ってはなんだが僕も少々武術を嗜んでいる。
 事務所を立ち上げて間もなくだから、かれこれ4年以上毎日欠かさず鍛錬しているその武術の名は「詠春拳」。

 そう、カンフー映画をして永年の大スターであるブルース・リー、の、師匠である葉問(イップ・マン)で有名なあの超がつくほど強くて格好いい「詠春拳」だ…

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