刀姫in 世直し道中ひざくりげ 仙女覚醒編 ノ110~112「魔皇悪来」「奪われる」「失われた意識と記憶」

刀姫in 世直し道中ひざくりげ 仙女覚醒編

「ふん!纏めてかかって来ても良かったのだがな。まぁいい、まずは貴様を血祭りに上げてから残りの部下どもを葬ってやる」

「ん〜、そんな簡単に僕は倒せないと思うよ。自分の強さに自信が無ければこの状況で一騎討ちなんかしないでしょうに?」

 と、夜倶盧はとぼけ顔で返した。

「お喋りは此処までだ、死ねっ!」

 言葉尻に夜倶盧へ向かって駆け出した亜孔雀が右拳を振り上げ先手を放つ!

「バチン!!」

「ぐむっ!?」

 だが先制攻撃は夜倶盧の身体には届かず、素早く合わせた「反発能力」のある天祥棍によって激しく弾かれるも!

「ガッ!!」

「おっ!?」

 弾かれた右腕の反動を生かして身体を回転させもう片方の手で夜倶盧の首を掴んだ!
 その掴んだ手に力を込めながら高く持ち上げ勝利を確信して笑う。

「グァグァグァ、呆気ないもんだ。あっという間に決着がついてしまったな」

「油断大敵ってもんだよっ!!」

「グサッ!」

「うっ!?」

 夜倶盧が背負った矢筒から取り出した矢を締め上げる腕に突き刺した。
 あまりの激痛に呻き声をあげた亜孔雀が掴んでいた手を離し、後ろへ退がって矢を引き抜こうとするが。

「なっ!?なんだ!?この矢は!?」

 左腕の甲に突き刺さる矢に手をかけたが、今度は引き抜こうとした手に激痛が走り慌てて離した。

「あ〜わかるわかる。凄まじい痛みを感じるよね〜。だって何を隠そう盗人君の腕に刺したのはただの矢じゃぁないんだよ。僕はね、この背中の矢筒には常に七種の矢を入れててさ。一度も使ったことのない『退魔の矢』を刺させてもらったというわけ…ん!?」

「ザン!!」

 得意げに長々と話す夜倶盧の目の前で、亜孔雀が躊躇なく自分の腕を手刀で切り落としたのである。

「へ、へ〜。思い切ったことをするね〜盗人君。大事な腕をそんな簡単に切り落とすなんてって!?」

 僅かなあいだで夜倶盧は二度驚いた。
 一度目は亜孔雀が己の腕をあっさりと切り落としたこと。二度目はその無くなった腕がトカゲの尻尾のように再生したことによる。

「再生する身体か…便利だね〜盗人君のは」

「一々うるさい奴だ。それに『盗人』などと呼ぶのはやめろ。オレには歴とした『亜孔雀』という名がある」
 
「亜孔雀、ねぇ。何処かで聞いたことがあるような、無いようなぁ…あっ!?思い出した!思い出した!確か、魔界三大魔王羅賦麻の息子、だったかなぁ?」

「二度は言わん!それよりこれでも喰らっておけ!魔皇悪来(まこうあくらい)!」

 亜孔雀が利き腕の右腕を前に突き出し、掌を空の方へ向けクイっと引き上げると。

「ズゥオオオオオオッ!!!!」

「なっ!?」

 夜倶盧の立つ真下の地が円形をした漆黒に変わった直後、そこから魔力の霧が彼をすっぽりと覆い隠すように立ち込めた!

「おっおおおおおおーーっ!!!??」

 魔力の霧が夜倶盧の身体にべっとりと張り付き、全身隈無くダメージを与えていく。

「グァグァグァ、腕を切り落とした際に噴き出た血が貴様の足下に飛んでいたのに気づいていたか?この技はオレの血を起点として放出するもの。貴様が幾ら俊敏とはいえ避けるのは流石に無理だったなぁ!ん!?なんだ?」
 
 高笑いする亜孔雀の脚に何者かが手を伸ばし、地面に引き摺り込もうと引っ張っていることに気づいた。

「もしや地雷蚓(じらいず)か?」

 亜孔雀の立つ位置の地表が蜃気楼の如く揺らぎ、地面より浮き出てている手が亜孔雀の脚を掴んでおり、その地の底から滲んだような声が聴こえる。

「左様にございます、亜孔雀様。羅賦麻様より命を受けやって参りました。この場を抜けるには今が絶好の機会。魔界へ帰りましょう」

「待て!まだ彼奴を倒しておらん!」

「なりません。彼奴は貴方様の魔力の壁を打ち破れる力を持つ者。決着をつけるにはまだ時間が必要にございます。本来の目的を見失って本末転倒というもの」

 亜孔雀が夜倶盧の方へ視線を送ると、夜倶盧が強引に魔力の壁から抜け出そうとするのが見て取れた。

「くっ!癪だが仕方ない。いま退魔の鎧に鎖を巻き直す。しばし待て」

 と言って魔力を使い新たに具現化させた鎖を退魔の鎧を着た透明仙人の真如ごと巻きつける。

「よし!引け」

「はっ!」

 亜孔雀の合図に従い地雷蚓が地中の異空間へ彼の身体を引き摺り込む。

「ズズズズズズズズズ…」

 亜孔雀の身体が完全に見えなくなり、退魔の鎧の兜まで地面へ吸い込まれようとしたその時!

「退魔の鎧だけは奪わせない!」

 遂に魔力の壁を突き破った夜倶盧が素早い動きで鎧の脛当て部分に飛びついた!
 だが退魔の鎧の胴の部分まで地面へ吸い込まれ、蜃気楼のように歪んだ空間は消え去り、残ったのは夜倶盧の握る脛当てのみとなってしまった。

「まさか奴に助けが来ようとは…僕としたことがしくじってしまったようだ…」

 夜倶盧が退魔の鎧を半分以上奪われたことを悔やみ、身体に付いた砂埃をはらっていると、残った脛当てを身につけている真如の脚が浮かび上がり、最後には素っ裸の彼女の全身が出現した…

「このお方は…真如殿か?」

 足下のあられも無い姿でうつ伏せに横たわる真如へ視線を落とし、怪訝な表情をして夜倶盧はうっそりと呟いた…

 間も無く仙王警備隊隊長の夜倶盧の部下達が二人の側へ集結し、部下の一人が真如の裸体に羽衣を被せてやった。

「夜倶盧様、真如殿はあの悪魔と共謀して退魔の鎧を盗んだのでしょうか?」

「…どうだろうねぇ…現状からすればそう捉えるのが至極妥当なんだろうけれど…取り敢えず本人に話しを訊いてみないことには…君達、悪いが真如殿を屋敷の中に運び服を着せてやってくれないかな。僕は此度の件を早々に仙王へ伝えなくてはならない」

「承知しました。では、そのように致します」

 部下の一人がそう言うと、他の者達と共に手際よく気絶している真如を運び、夜倶盧は近くにある仙王の屋敷へ急いだのだった…

 
 数時間後、退魔の鎧が置いてあった仙王大社の大部屋で、真如が朧げながら意識を取り戻し目を開けると、夜倶盧が正座して彼女をジッと見つめる姿が映った。

 夜倶盧が和らいだ顔をして真如にそっと話しかける。

「良かった。意識が戻ったようで何よりです真如殿…ところで、目覚めたばかりの貴方に即刻訊くのは申し訳ないのだけれど、なぜ真如殿は退魔の鎧を盗もうと思ったのですか?」

「……………….あっ!」

「ガシャリ!」

「えっ!?」

 真如が夜倶盧を頭の中で認識するのに多少の時間を取り、仙王警備隊隊長であることを思い出して起きあがろうとしたところ、手足が鎖で繋がれ動かせぬことに気付き驚く。

「申し訳ないのですが、真如殿は今は退魔の鎧を盗んだ罪により罪人扱いとなっておりますゆえ…そのままの姿勢で質問に答えていただきたい」

「…退魔の鎧をわたしが盗んだ?..とんと覚えがありませぬ…」

 退魔の鎧を盗んだことを完全否定した真如。実際のところ彼女としては口に出した言葉に嘘偽りは無かったのだが、現に退魔の鎧を盗んだという事実は夜倶盧とその部下の十五人に目撃されている。

「覚えがないとは…いったいどういうことか説明してもらえませんか?」

 夜倶盧が美しい顔の眉間に少しばかり皺を寄せ、軽い溜息を一つついて訊いた。

「…今ここで目覚める前…どれくらいの時が経っているのかも分かりませぬが、わたしはある者に変な物を飲まされ、そこからの自身の意識と記憶が全く無いのでございます…断じて嘘は申しておりませぬ」

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