物語を気長に長く話していれば、仙人の誰かが実際に仙器を造る逸話もいつかは語れようというもの…
ゆえに、わたくし語り手が本筋を忘れてしまうという大失態を放つ前に話しを元へと戻そう。
さてさて確かたしかぁ…
亜孔雀の霊蟲によって操られている哀れな仙女の真如が透明化する仙術を使い、仙人界最高峰の宝でもある「退魔の鎧」を盗んで逃げようとしたところ、仙王警備隊隊長にして極ナルシストの露星夜倶盧(ろせいやくる)に見つかり逃げ道を塞がれ立ち止まってしまった。
そこへ空から降って来た亜孔雀が奇襲を仕掛けるも夜倶盧に紙一重で避けられ、亜孔雀が真如ごと退魔の鎧を持ち去ろうしたところ、極めてナルシストの夜倶盧がそうはさせじと天祥棍を見せびらかし、先日亡くなった二人の老仙人の件に亜孔雀が関与しているのでは?と疑ったナルシストが問いを投げかけ、訊かれた当人がはてさてどう返すのか…
「知らんな」
亜孔雀はただ一言だけそう言うと、退魔の鎧と繋がる鎖を持つ左腕とは逆の手、つまりは空いている右腕に黒いモヤモヤがかった魔力を溜めた直後、地面めがけて右腕を振り下ろす!
「暗黒繋縛(あんこくけいばく)
「バァウン!!」
腕を振り下ろした地点に丸く馬鹿でかく黒い水の塊が顕現され、瞬く間に三倍の大きさまで膨張し。
「バシュッ!!!」
大きな炸裂音と共に破裂した!
そして黒い水が四方八方へ高速で飛び散る!
「グァグァグァ!これを喰らった者は数分は身動きがとれぬ!間抜けな隊長殿、あばよ!」
至近距離でこの技は避けられぬ筈と、己の作戦が功を奏したことを確信して疑わぬ亜孔雀が立ち去ろうとするが。
「ぬっ!?」
退魔の鎧と繋がった鎖がピンと張った状態でピクリとも動かない。
亜孔雀が何事か?と振り返り確かめると、鎖で雁字搦めにした退魔の鎧の後ろから、美しすぎるナルシストな超美青年がひょっこりと顔を出す。
「ふぅ、びっくりしたなぁもう。でも機転を効かせて退魔の鎧を盾にした僕って美しいとは思わないかい?」
「…………..貴様….」
連続して二度までも奇襲をかわされた亜孔雀が、何か言おうとしていた口を塞いだ。
夜倶盧の素早い判断力と身のこなしに驚愕していたこともあったが、先に夜倶盧が放っていた緊急信号を目にした部下達が集まり、亜孔雀、夜倶盧、真如(退魔の鎧の下は素っ裸)を取り囲むようにして並んでいたのである。
何処からどう見ても微塵の隙も無く、魔王の息子の亜孔雀は追い詰められていた。
「あちゃ~、もう集まって来ちゃったのね~。でもまぁ流石は「美し過ぎる僕」の優秀な部下達だ褒めてあげよう、チュッ♡」
部下達の上々な守備に夜倶盧は喜びを隠そうともせず、手慣れた感じでなんと部下達へ投げキッスを贈ったものである。
集結した十五人の部下達全員の目がうっとりとして頬が赤らむ。
先に云っておくべきだったけれど、仙王警備隊隊長の夜倶盧の部下達は全員女であり仙女であり美人揃いである。よって部下達の中にはむさ苦しい男などはただの一人もおらず、男がうっとりとして頬を赤らめるが如き情景は皆無なので悪しからず。
なぜ部下達が全員仙女であるかは云うに及ばず、隊長の夜倶盧が「超」のつく「女好き」であるからに他ならない。
とはいえ、亜孔雀を驚愕させた隊長の部下達が単に美しいだけでひ弱であるはずも無く、大袈裟な、あくまでも大袈裟な噂によればだが、彼女らの戦闘能力は北欧神話に登場するワルキューレやヴァルキリーに匹敵するとかしないとか…
加えて彼女らの警備隊においての正装は、仙女が通常身に着ける羽衣の三分の一ほどの面積しか無く、肌の露出度が非常に高い仕様となっていた。
流石にこれを初めて見た仙王が、「少しばかりやり過ぎではないのか?」と注意に近い提言をしたのだが、夜倶盧は「折角の美しい姿に生まれたのです。それを隠して生きるは彼女らにとっても、周りの者達にとっても損するだけで誰も得は致しません」などと平然と言い退け、仙王は仙王で「お主の言葉に一理あり」とあっさりと認めたものだから、老仙人なる仙女から一年ほど白い目で見られたものである。
この女だらけの仙王警備隊をとめどなく語りたいところではあるけれど、ここ最近の物語の進捗度合いを鑑みてやめておこう。
さて、「暗黒繋縛」という奥の手を使って回避された上、美人戦隊、否、仙王警備隊に囲まれ絶対絶命となった亜孔雀。彼の表情は相も変わらず読み取り辛いところではあるけれど、その鋭い目の奥には少なくない焦燥感が漂っていた。
「…不味ったか…」
「ん!?おっと〜!遂に盗人悪魔君の口から弱気発言いただきました〜!無駄な抵抗をしてくれた方が楽しめちゃうけれど、止めにして観念しちゃうのもありっちゃ〜ありだよ〜」
亜孔雀は誰にも聴こえぬ音量で呟いたつもりであったが、夜倶盧は仙人でありながら地獄耳であったらしく、圧倒的な優勢による余裕でもってそう言った。
しかし…絶世の美形を運良く天より授かった夜倶盧の話す言葉には、高尚な美顔とは裏腹に少々品が無いようである。
人間界に完璧な者が存在しないのと同じように、人間より遥かに能力の高い仙人といえども、残念ながら完璧な者など存在しないのであろうか…
「…誰が、誰が無抵抗で捕まってやるものか!貴様ら全員地獄に落としてくれるわ!」
亜孔雀が現状からして悪足掻きの言葉を放つと、彼の身体から漆黒の禍々しい気が揺らぎ放出されていく。
「やはりそう来たか。ならば楽しい一戦交えるとしよう…我が愛しき部下達よ!ここは盗人君と僕の一騎打ちとする!手出し無用と承知してくれ!」
なんと隊長の夜倶盧は多勢に無勢の優位を捨て、亜孔雀との一騎討ちを選択した。
周囲を囲む部下達が無言で手に持つ武器を納め一斉に後ろへ退く。
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