刀姫in 世直し道中ひざくりげ 仙女覚醒編 ノ74~77「悪魔」「十倍重力」「夢」「百戦錬磨」

刀姫in 世直し道中ひざくりげ 仙女覚醒編

「グァグァグァ。すまんな爺ども!俺は貴様らに比べれば赤子のような年齢だ。なんせ魔界でに生誕して百年ほどしか経っていないんだからな!グァグァグァ…いいだろう。名を覚えてもらっても無駄でしかあるまいが教えてやる。この世と繋がる魔界より現れし俺の名は、『亜孔雀』だ!グァグァグァ、さぁて、狩るとするか…」

 余裕綽々といった亜孔雀が名乗り、城太郎の身体が溶けるようにしてあっという間に亜孔雀本来の姿へと変貌を遂げた。

「この若造、やはり魔界の者か、油断するでないぞ府刹那爺」

「言われんでもわかっとるわい…雅綾、いつもの作戦で行くぞい。先手必勝じゃ」

「心得た…」

 人間が想像を絶するほどの長い時間、将棋の盤上で頭脳戦を繰り広げて来た二人の意思疎通は阿吽の呼吸と云ってもよい。

 それに加え相手がこの世界の者でない恐ろしい悪魔だと知っても、百戦錬磨の雅綾と府刹那に動揺は全く感じられない。と云うかむしろ、久々に味わう命を賭けた勝負を楽しんでしんでいるようにすら見えた。

 蓄えた白い顎髭が、1メートルの長さはあろうかという雅綾が累重杓を大きく振り翳す!

「万物を引き寄せる重力よ!礼儀を知らぬ悪魔の若造をひねり潰せ!圧殺超重力!」

 自然、というより地球という星の力である重力に当たり前だが色など着いてはいない。

 だが雅綾の繰り出した重力の仙術には不思議と色が備わっている。

 その証拠に亜孔雀の頭上には漆黒の重力らしき霧が浮かび上がり、漆黒の霧はまるで生き物の如く真下の亜孔雀に襲い掛かった!

「ズゥオオオオオッ!!!」

「ぬぅっ!?」

 地球に現存する重力の十倍ほどの負荷が亜孔雀の全身に重くのしかかり、踏ん張る両足が地面に沈み込む。

 それを見た雅綾がしてやったりと愉快そうに笑う。

「カッカッカッ!どうじゃ!悪魔の若造よ!我が仙術の威力はなかなかのもんじゃろう?」

「ちっ….」

 かかる十倍の重力に抗えず身動きの取れない亜孔雀が悔しげに舌打ちした。

 と、動こうともがく亜孔雀の目の前にもう一人の老仙人府刹那が現れ、長年愛用する自慢の仙器天祥棍を意気揚々と大きく振りかぶる!

「さぁてお待ちかね!我が天祥棍による会心の一撃をとくと喰らうがいい!大爆一怒涛撃(だいばくいちどとうげき)!!!」

「くっ!!??」

 亜孔雀は真正面から頭を狙い放たれた大技をまともに受けてはならぬと、火事場の糞力で咄嗟に両腕を動かし顔面を防御する!

「ゴギャッ!!バチィッ!!」

 防御する強靭な両腕が一瞬で粉砕され、天祥棍の力にによって亜孔雀の身体が遠くへ弾け飛ばされた!

 時代背景に相応しくない表現かもしれないが、否、絶対に相応しくない表現に違いないけれど、怪異にして悪魔の若造亜孔雀はビリヤードのキューに突かれたように弾き飛ばされたのである。

 その光景は速さは凄まじいものの軽く弾かれたように見え、さほどダメージは与えられていないようにも思えたが、実のところ、驚くことなかれ亜孔雀に加えられた衝撃は、10トン以上の馬にはねられたのと同等であった。まぁ、10トン以上の馬と云われても想像し難きことだろうが…

 語り手の絵も云われぬ下手くそな表現云々は丁寧にさておき、亜孔雀は凄まじい衝撃によって百メート以上弾き飛ばされ、防御にまわした両腕は肘から下が粉砕され失われていた。

 だが、雅綾の圧倒的な圧力を加えた重力仙術と、府刹那の想像を絶する必殺の一撃を喰らったにも関わらず、悪魔の若造亜孔雀は倒れることなくその場に直立していたのだった。

「おいおい雅綾爺、儂は夢でも見ておるのかのう。あの若造、儂ら渾身の連携仙術を喰らったというのに生きて立っておるぞい」

「いやいや府刹那爺、残念無念ここに極まれりじゃ。目に見えるは夢なんぞという生優しいもんじゃないぞ。信じられんほど丈夫なやつじゃわい…」

 千年を生きた仙人である雅綾の言った言葉には重みがあり過ぎる。

 仙人には大まかに分けて武闘派と知性派の二種のタイプがあり、将棋をこよなく愛する雅綾と府刹那の二人は一見して知性派だと勘違いされるが、何を隠そうこの二人はバリバリの武闘派なのである。
 
 十世紀という想像を絶した濃密で遥かに長い期間を生きて経験を積み上げ、バリバリの武闘派であり百戦錬磨の彼らが、亜孔雀のタフさに驚愕した事実は殊の外唯ならぬ事態と云えよう。

「ぺっ!…ちぃと舐めすぎちまったようだな。思いの外やるじゃねぇか爺ども、オレ様にこれだけの被害をもたらしたのは百年のあいだで貴様らだけだ。敵を褒めたことはかつて無かったが、貴様らの実力だけは素直に誉めておいてやろう…」

 なんと、プライドが富士山ほども高い悪魔の亜孔雀が、老仙人の二人に賞賛の言葉をかけ…

「フンッ!!」

 亜孔雀が鼻を大きく一つ鳴らして気合を入れ、身体からドス黒い魔力を溢れさせると、粉砕され失われていた両腕があっという間に復元された。

「おほ〜!強靭なタフさに加えて自己回復能力を持ち合わせておるんかえ!こりゃぁ本当に油断ならぬ相手のようじゃ。なぁ雅綾よ」

「確かに。ほんに面白くなって来たわい…」

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