建設業の特質と原価計算への影響
○受注請負工事が基本であり、個別原価計算が採用される
○公共工事が多く、受注には入札制度が採用されることが多い
○比較的生産期間(工事期間)が長いものが多いため、間接費や共通費の配賦が期間損益計算にあたって重要になる
○建設業の生産現場は移動的であるため、共通費をどのように配賦すべきかに注意する必要がある
○機材も同様に移動的であるため、常置性固定資産が少なく、単純な減価償却計算だけでなく、損料計算が行われる
○工事種類(工種)および作業単位が多様であるため、工種別原価計算が重視される
○通常の原価計算では、原価を材料費・労務費・経費の3つに分類するが、建設業では多様な専門工事や作業を必要とするため、外注依存度が高い。原価は材料費・労務費・外注費・経費の4つに分類される
○生産現場の移動性などの理由から、建設活動と営業活動との間にジョイント性があるため、両者を明確に区別することは難しいが、原価計算的には工事原価と営業関係費(販売費及び一般管理費)と区別する努力が必要
○請負金額や工事支出金額が高額なので、非原価項目である利子について、原価管理の観点から弾力的な取扱いが要求される場合がある
○自然現象や災害と関連が大きいことから、リスク・マネジメント的な意味での事前対策費は、健全な原価管理上重要な配慮事項なので、原価性を有すると考えられる
○共同企業体(ジョイント・ベンチャー)による受注があることから、完成建設物の部分原価計算という性質を持つ場合がある
原価の基本系統
支出原価と機会原価
支出原価:支出する貨幣額で把握する
機会原価:特定の行動の代替案を採択することによって犠牲となる他の行動の代替案の利得をもって、その行動の代替案の原価を把握しようとする
事前原価と事後原価
事前原価
○注文獲得や契約価格設定のために算定される見積原価
○現実の企業行動を想定して算定される予算原価
○原価能率の増進のために、基準値として算定される標準原価
事後原価
行為の後に測定され、実際原価とも呼ばれる
実際消費量 × 実際価格
実際消費量 × 予定価格
イニシャル・コストとオペレーティング・コスト
イニシャル・コスト
一種のコストである初期投資
営業活動から徐々に回収する必要がある
オペレーティング・コスト
投資行動後の経常活動に伴うコスト
コストの回収は当該活動の進行とともに実施しなければならない
キャパシティ・コストとアクティビティ・コスト
キャパシティ・コスト
活動の規模(キャパシティ)を維持していくことに伴うコスト
減価償却費、修繕管理費、固定資産税、保険料など
アクティビティ・コスト
経済活動を進行させなければ発生しないコスト
原材料費など
プロダクト・コストとピリオド・コスト
プロダクト・コスト
一定の生産物(給付)単位に集計される原価
工場製造業でいう製造原価であり、建設業でいう工事原価
ピリオド・コスト
販売費及び一般管理費を指す
全部原価と部分原価
全部原価
全ての製造関係費用を集計し単位原価の算定をする場合
部分原価
例えば変動費のみを製品単位原価の計算に関係させるような場合
制度的原価の基礎的分類基準
○計算目的別分類
実施しようとしている原価計算が、どのような目的のためにどの計算領域を包括すべきかを指定するのに必要な分類基準
・取得原価 ・製造原価 ・販売費及び一般管理費
○発生形態別分類
三分類法 ー 材料費、労務費、経費
四分類法(建設業) ー 材料費、労務費、経費、外注費
○作業機能別分類
企業経営を遂行した上で、どのような機能のために発生したかによる分類
材料費 ー 主要材料費、修繕材料費、試験研究材料費など
労務費 ー 監督者給料、直接作業工賃金、事務員給料など
経費 ー 電力料の分類など
販売費及び一般管理費 ー 広告宣伝費、出荷運送費、倉庫費など
建設業独自の分類として、原価を工事種類(工種)別に分類することなど
○計算対象との関連性分類
一般製造業の場合 ー 製造直接費、製造間接費
建設業の場合 ー 工事直接費、工事間接費
○操業度との関連性分類
生産能力または販売能力を一定とした場合における予定、あるいは実際のその利用度合いを示すもの
操業度の増減に応じ総額において比例的に動く原価を変動費(比例費)といい、広義の変動費に属するものに逓減費、逓増費がある
これに対し、操業度の増減にかかわらず総額において変化しない原価を固定費という
変動費と固定費の中間的なものとして、準変動費や準固定費がある
○発生源泉別分類
アクティビティ・コスト(業務活動費)
製造や販売の活動が実行される際に、その活動と付随して発生する原価
キャパシティ・コスト(経営能力費)
企業経営活動を実践するために保持されるキャパシティ(製造・販売能力)の準備及び維持のために発生する原価
○管理可能性分類
原価の発生が一定の管理者層によって管理し得るか否かによる分類
管理可能費、管理不能費
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