小判の行方
ミーコがマンション近くに降りてくれたおかげで、一度マンションに帰り昼食をとった。
カップ麺をすすりつつ問いかける。
「天照様のくれた小判10枚のうち9枚を換金して、自宅兼事務所を借りようと思うんだがどうだろう?」
1枚は記念に取っておくつもりだ。
ズズズズズズズズズとカップ麺をもの凄い勢いで食べ終えたミーコが答える。
「ぷは〜美味しかった〜♡別に良いんじゃないかなぁ、見たところ特別な要素は無いみたいだし、天照様も有効活用した方が喜ぶと思うよ〜」
「そうか、そうだよな!ここは遠慮なく使わせていただくとしよう」
「早速換金だ〜!」
「小判とは関係無いのだが、ケット・シーには猫舌という概念は無いのか?」
「妖精だからね〜、普通の猫とは違うヨォ」
「なるほど、妖精さんはやっぱ違うのな」
昼食の後片付けをしたあと昼寝をしたい気分だったが、ぐうたらすると出たくなくなってしまうので、直ぐに軍資金を手にすべく換金所を目指して2人で外へ。
テクテク歩いて最寄りの換金所に着く。
受付には可愛らしい若い女性が座っている。
「あの〜、小判って換金出来ますか?」女性の表情が曇る。
やっぱだよな。普通は鑑定してくれる質屋的な店に持っていくもんだ。
「少々お待ちください」と言って店の奥の店長らしき人と話し始めた。
暫くして女性が帰って来る。
「お待たせ致しました。当店では通常小判の取り扱いはしておりませんが、今回は特別に店長が査定させて頂きたく存じますが、よろしいでしょうか?」
「よろしいです」
即答。
「初めまして、店長の金田と申します。早速ですが、お持ちになった小判を拝見させていただきます」
バッグから小判を取り出して差し出す。
店長は手に取り確かめる。その過程で一瞬薄笑いを浮かべたのを俺は見逃さなかった。
こいつ怪しいな。
「1枚10万、9枚で90万円と交換致したいと存じますがいかがでしょう?」
(この人まずいよ)ミーコも俺と同意見らしい。
「もう少し検討させてください。失礼しました〜!」
俺は小判を素早く回収し、逃げるように店を出た。
店が見えなくなったところで、今更ながらスマホを使って相場を調べる。
10万ってのも悪くはないが、造られた時代によって価値が変わったりするのか。
ついでに鑑定と買取してくれる店をネットで検索して歩き出す。
「こんな経験初めてだから慎重にいかないとな」
「そうだね〜、源九郎の棲家のグレードが決まるからご利用は計画的に〜」
次の目的地は「質屋の玉三郎」という店だ。
急ぐでもなくテクテク歩いてると、
「おーい!そこの人〜」
後方から可愛らしく若い声で誰かに呼びかけている。周りに人影がないので俺に用件があるのだろうと振り向くと…
質屋
20歳前後に見える黒髪で美人のお姉さんが手を上げて自転車で追いかけてくる。
天照様ほどではないにしても、すこぶる可愛いいな。
今日も良い日!? お姉さんが追いつき何か渡してくれた。
「こ、これ、落としましたよ」
おっと、これは小判の入った封筒ではないか!?こんな大事な物を落としていたとは不覚極まりなし。 間近で見るとさっきの2割増しくらい可愛く見えるが、ここはお礼が先だな。
「とても大切な物でした、ありがとう」
「持ちつ持たれつですよ」
な、なんて良い子だろう可愛いし。
3年以上彼女のいない俺にとってはキラキラして見える。
「あの、お礼がしたいから何処かでお茶でもいかがかな?」
意を決して言ってみた。
「あ、いま急いでるんでお礼は結構です」
即答。
笑顔で手を振りながら来た道を軽快に自転車で戻って行った。
「落ち込むな源九郎。あちしがそばにいるから寂しくはないでしょ!」
「寂しくはないけど、ねぇ」
世知辛い世の中で、落とし物を届けてくれる気概、改めてやっぱり善い子だったなぁ。
「小判を失くさなくて良かったね〜」
「そうだな、ホント助かった」
それから10分ほど歩いて質屋に到着。
入り口をガラガラと開け中に入ると、高そうな骨董品が並べてらているのが見えた。
しかし、店内に人影が見当たらない。
「ごめんくださーい」
呼びかけてみるが返事が返って来ない。
「ごめんくださーい!」
さっきの1.5倍くらいの大きさで勢い良く声を出してみた。
ようやく店の奥からヨボヨボと言っては失礼だが、ヨボヨボという表現がピッタリすぎる爺ちゃんがゆっくりと姿を現す。
「いらっしゃぁいぃ」
口調も遅い。
「あの、この小判を鑑定して欲しいのですが」
「小判?どれどれ」
ゆっくりと小判を手にして、鑑定を始めてくれるようだ。
暫く観ていた爺ちゃんが突然ハッとした表情をする。
やはりこの小判には相当な価値があるのだろう、そうに違いない!
「眼鏡とルーペを忘れとった」
「お約束やないかーい!」
心の中で突っ込まずにはいられなかった。
「ついでに資料も探してくるから、ちょっと待っててもらえんかのぉ」
「分かりました。お願いします」
探す!?これは時間がかかるフラグだな。はやる気持ちはあるが、さっき振られて野暮用もないので気長に待つことにした。
暫く店内の骨董品やらを見ていると、入り口付近から自転車のブレーキ音がして、ガシャンと止める音。
お客さんかな?入り口に目を向けると、俺の心は小躍り状態になる。
小判を拾ってくれた女性が店内に入って入って来たからだ。
綾野泉音(あやのいお)&ルカリ
「お爺ちゃんただいま〜、お客様に届けて来たわよ〜」
一瞬隠れてしまおうかと思ったが、勇気を出して顔を出す俺。
「お爺ちゃんは探し物してますよ!」
女性は俺の方を見るなりハッとしたような表情をする。
「あ、さっきはごめんなさい。折角誘っていただいたのに…」
「いえいえ、ただ拾っていただいたお礼がしたかっただけなので…」
何か気不味い…
「ちょっと見て来ますね」
「あ、はい」
女性は早々とお祖父ちゃんのところへ行ってしまった。
「源九郎、あの人も妖精との契約者みたいだよ。しかも相手はエルフ」
「え!?そうなの?ミーコ以外にも異世界からこっちの世界に来てる妖精がいるのか?」
「正確な数は分からないけど1万人くらいは来てるかなぁ。ちなみ妖精系だけじゃなくて他の種族も来てるからね」
などと話していると突然目の前に、またまた美しい女性がスッと現れた。
超メジャーな妖精エルフ…
肌が透き通るように美しく、体型はスラっとしていて特徴的な長い耳もある。
実際に見ると良い意味で迫力があるなぁ。とエルフがお辞儀してくる。
「初めまして、綾野泉音(あやのいお)さんと契約を結んでるエルフ族のルカリです」
声も美しい…ついでにあの子の名前までゲットしてしまった。
「こちらこそ、俺は源九郎でこっちはミーコです。よろしくお願いします!」
「あちしもよろしくお願いしま〜す」
「ケット・シーの幼少期はホントに可愛いの〜」
エルフはミーコをギュッとして抱きしめ、舐めまわしてしまいそうな勢いで強めのハグを始める。
その姿は単なるヌイグルミ好きのお姉様にしか見えなかった。
「えーとルカリさんってば、その辺でストップしてもらって少し質問させて欲しいのですが…」
「いつでもどうぞ〜」
ミーコを放す気は無いようだ。
「やっぱりルカリさんも世界の綻びのために人間界へ来たのですか?」
会ったばかりでいきなりどストレートな質問。エルフの表情がスッと変わる。
「そうですよ、でも泉音は直ぐに理解して協力の約束をしてくれました」
「女性なのに勇気ありますね」
「あら、勇気の大きさに性別は関係ないのでは?」
後ろからの声、綾野泉音だった。
「で、ですよね〜考えが古臭くて申し訳ありません」
慌てて謝る。
「泉音はこう見えて気が強いのですよ」
「ルカリ、隠すような事ではないけれど人前ではほどほどにしてね」
「ほどほど了解!」
「あ、そうだ!お爺ちゃんはもうすぐ来ますので」
「あ、ありがとうございます」
危うくここに来た目的を忘れつつある俺であった。
換金
店主の爺ちゃんが再度現れ鑑定を始める。
しっかり眼鏡とルーペをの完全装備であることはを付け加えておこう。
「ムムム…」
爺ちゃんがうねる。
「この小判は珍しくて素晴らしい物ぢゃ、1枚あたり200万として9枚で1800万で買い受けるがどうぢゃ?」
ネットで高価な物はそれくらいの値が付く事は知っていたのだが、この小判に価値があるという事実を目の当たりにすると驚かざるを得ない。
「い、良いんですけど、げ、現金でもらえたりるのでしょうか?」
まだ頭は正常に働いている。
「無論ぢゃよ」
一気にMAXハイテンションに達する俺の図。
「泉音や、早速持って来ておくれ」
「はーい」
隣で聴いていた綾野泉音が場を離れ店の奥へと消えて行く。
「ぢゃ、現金が届く間、書類にサインして貰おうかのぉ」
爺ちゃんが金額を書いて書類を見せる。
念のためエルフに抱き抱えられたままのミーコの表情を確認する。察するに、今回は何も怪しさは感じないらしい。
「ここで良いですか?」
「大丈夫ぢゃ」
俺は少し震えた手で署名押印して爺ちゃんに書類を渡す。
「爺ちゃん持って来たよ〜」
綾野泉音が100万の束を数えながら置いていく。
「16、17、18。はい、これで1,800万円丁度です。一枚一枚数えて頂いても結構ですが、念入りに数えてあるので大丈夫です」
俺は「ゴクリ」と唾を飲み込む。
「あ、いえいえ信頼してますから」
会ったばかりの人達を信用するのも何だが、綾野泉音に関しては何故だか疑う気持ちが起こらなかった。
「あの、差し出がましいようですが大金ですし、一度銀行に預けられた方が良いと思います」
こんな大金マンションに持ち帰るわけにはいかんだろうし、近くに口座のある銀行を見かけたからそこに預けよう。
「ですよね、ご心配ありがとうございます。そこの○○銀行に預けに行きます」
「でしたら私も銀行までご一緒しましょうか?」
おっと思わぬ展開。銀行までと遠慮なさらずに食事までと言おうとしたが止めといた。1日に2回も振られたくはない。
「じゃあ行ってくるね、お爺ちゃん」
「気をつけてな」
お爺ちゃんが笑顔で見送る。
「ありがとうございました」
お爺ちゃんにお辞儀して2人で、いやプラス2名の4名で銀行へと向かう。
「自己紹介がまだでしたね。私、綾野泉音、大学生やってます」
「俺は仙道源九郎、えっと、自営業をこれからやろうとしてるとこです」
まだギクシャクしてるなと感じているところに。
「あのぉ、貴方も妖精さんと契約してるんですね。さっきルカリが教えてくれました」
行動早いなエルフのルカリさん。
友達
「ははは、知ってたんですね。突然このケット・シーのミーコが現れて契約したんです」
「よろしく!ミーコちゃん」
綾野泉音は積極的な性格のようで、ミーコに握手を求めた。ミーコもそれに応える。
「よろしくお願いしま〜す」
微笑ましい。
俺はエルフのルカリにハグを求めようとしたが、自制心が働いてくれて止めた。ちょいちょい疾しい妄想が出てしまうが、表に出さなければ無害ということで。
「私は20歳です。失礼かもですけどお幾つですか?」
見た目が若返ってるので素直に実年齢はやばいだろう。
「え〜と俺も20歳です」
安易に同年を装う事にした。
「そうなんですね!あのぉ、変な女と思われるかも知れないんですけど、妖精仲間という事で友達になっていただけませんか?こう見えて不安で…だから同じ境遇の人が友達だと嬉しいかなぁと…」
そりゃ不安にもなるよな。人生経験豊富なはずの俺でも心に不安の塊があるのだから。
「もちろんですよ!じゃあ同い年だし敬語もやめて、お互いに“泉音”と“源九郎”で呼び合うって事でいかがですか?」
調子に乗って言ってしまったが、こういう時は一気に関係を縮めるのも悪くはないはず。
「ありがとうございます。えっと、改めてよろしく源九郎!」
なんと俺にも握手の素振り、言ってみて善かった。
「よろしく泉音!」
初の女子大生の友達。
柔らかい手の感触を覚えつつ固い握手をしたあと、世界の綻びなどについて語った。
ルカリとの契約で得た能力は“魔法”とのこと。攻撃系特化型だけど、回復系・補助系魔法も使用可能で、自身の成長と共に威力が増し、新しい魔法も覚えていけるらしい。いわゆる“魔法使い”凄いな。
心苦しかったのだが色々考えた結果、俺のスキル「無限覚醒」は秘密にしておいて、「身体能力UP」の件を伝えた。これは嘘でも無く事実だから話し易く、測定をした結果まで話したら「凄い!」って褒められてしまった。てへっ。
異世界の件については、行くことに決めてるけれど、人間界での生活もあるからじっくり考えて計画を立てているらしい。
銀行に着きお金を預けた。
そのあと通帳残高が12万円(残高やばいな)から1,812万円になっているのを確認し、当面の資金的余裕が出来た事に胸を撫で下ろす。
泉音ともっと話したかったが、お爺ちゃんへの報告と、大学のレポート作成があるらしかったので、食事には誘わず銀行を出て泉音とは別行動となった。連絡先は交換したので問題無し!
「よし、何軒か不動産屋に寄って自宅兼事務所の目星を立てておくか」
「良い物件があると良いね〜」
俺とミーコは幾つかの物件を確認して、その日はマンションに帰ったのだった。
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