「一体何だったんだあれは?」
「わたしにも分からないわ。でも、山の方へ垂直に落ちたから流れ星ではないわよね?」
「そうだな…流れ星でないのは間違いないが、あんな落ち方をする物を今まで見た事がない」
「ねぇあなた、今から落ちた場所を見に行きましょうよ」
ジーナは好奇心が強く、珍しい物などを見ると、幼い少女の様に燥いでしまう一面をもっている。
「もう今夜は遅いし暗いから、アレを探すのは難しいよ。それに落下地点までは結構な距離がありそうだから君を連れて行くのは無理だ。朝になったら俺が探索に行って来る。だから今夜はもう寝よう」
「…そう残念ねぇ、でも分かったわ。じゃあ明日はお願いね」
ジーナは肩を落としてシュンとしながらも、言われた事が真っ当に正しいと判断して素直にセトに託す。
気付けば先ほどのワインが二人とも効いてきたようで、ベッドに入ると思いの外早く眠れたものである。
翌朝になり、ジーナが「シャーッ」とカーテンを開ける音でセトが目を覚ます。
窓の外に目を向けるとまだ日は登っておらずほんのり薄暗い。
「…おはようジーナ、今朝は随分と早起きだな」
「おはよう!あなた。やっぱりわたしも探索について行く事にしたわ。だってアレが何なのか気になって待ち切れないんですもの」
長く一緒に生活して来たが、こんなに高揚しているジーナは見たことないな、とセトはある意味嬉しく思うのだった。
「分かった、分かったよ。一緒に山へ行こう。朝食を食べて準備しないとな」
「そう来なくっちゃ!朝食の準備はもう出来てるわ。早くいただきましょう」
昨夜の胸をときめかせる少女の様なジーナに戻っていた。
忙しく朝食を済ませ、服を着替えてバックパックを各々が背負って家を出る。
探索目的の山の名は「エルガ」。
ペタリドを挟む二つの山の一つで、セトはもう片方の山「ダリガ」とを毎日交互に狩りで入っていた。そのお陰で両山の地理に関してはほぼ完璧に把握している。
エルガの麓に着く頃には陽が差して辺りはすっかり明るくなっていた。
妻を気遣って普段より遅いペースで先を歩くセトが後ろを振り向き声を掛ける。
「身体が辛くなったら我慢せずに直ぐ言うんだぞ」「気遣ってくれてありがとう。その時は遠慮なくあなたに背負って貰うわね」
笑顔で冗談っぽくジーナは応える。
幸いな事に天気にも恵まれ、季節も年間を通して最も過ごしやすい秋であり、山の探索には絶好のコンディジョンといえた。
道中、狩り目的であれば絶好の獲物であるラゼム(シカに似た生き物)を見掛けても、今日に限ってはセトも素通りする。
山に入ってから2時間ほど歩いたが、ここまでの道のりは順調そのものであった。
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