対峙する二人の距離は20mほどしか離れていない。
カラハグがその気になればあっという間に間合いを詰められる攻撃範囲であったが、すぐに攻撃を仕掛けるような素振りは無かった。
「その言葉通り実現することは万が一にも無いだろうが、せめて我を楽しませてくれると嬉しいぞ。カカカッ」
カラス王が落ち着き払った口調で乾いた笑い声をあげた。
「今、お前とこの場で戦えるのは俺だけだ。だから最後の一騎打ちは近接戦で方をつけようじゃないか!」
匡が敵の身体能力の高さを知らないはずもない。もちろん何か策があってのことだったろうけれど、近接戦を所望するのはかなり控えめにいっても無謀極まりないように見えるのだが…
「カカカッ!貴様の望み通りにしてやろう。我は此処を一歩も動かん。好きなだけ向かって来るがいい!」
やはり戦闘において絶対的な自信を持つカラス王は匡の言葉に余裕で乗った。
しかもその場を離れないというおまけ付きである。
「……..カラスの王様というだけあって流石だな。約束通りそこを一歩も動くなよ!」
「王に二言は無い!」
カラハグとの間合いを詰めるため、匡が一歩、また一歩とゆっくり歩を進める。
周囲は家屋の瓦礫がまばらな山積み状態になっていたが、歩く地面は先程の爆心地で石ころは転がっているものの更地だ。
歩を進め距離が縮まっても、匡の表情に変化が無く恐怖心をあらわすような素振りは窺えない。
そして間合いが残すところ5m余りとなった地点で歩みを止めた。
対峙する二人の身長は倍ほども差があり、遠目に見れば大人と子供といってもいい様相を呈している。
少し腰を低くし、慣れずにぎこちない攻撃の構えとる匡が口を開く。
「じゃあ一発いかせてもらうが構わないか?」
「…..さっさとかかって来い」
カラハグがめんどくさそうに攻撃することを促す。
「じゃっ!」
「フッ!」
「!?」
匡の初動は想像以上の速さであった!
言わずもがな、動体視力も優秀なカラハグが一瞬その姿を見失う!
「っ!!?」
カラハグは視力では無く、己の「生物探知能力」の恩恵によって足元にいることを察知した、否、経験したことのない危機的寒気を背中に感じ取った!
「真空崩壊砲!!」
足元の低い位置から敵の土手っ腹を狙いすまし能力を発動させる右アッパーを繰り出す!
一歩も動かないと約束したカラス王の土手っ腹に命中し、カラハグの身体を上下に両断する!と思われた攻撃が空を切った!!??
カラス王は相手の攻撃に初めて恐怖からくる生命の危機を感じ、無意識な反射神経によって後方に素早く動き匡の拳を避けたのだった。
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