「ばあちゃんの代わりに食料を調達すると言っても、お金を出して買い物をしたわけじゃない。申し訳ないとは思ったけれど、人が居なくなった空き家なんかを漁らせてもらった…」
真剣に話しを聞いていた匡が、ここで訝しむような表情をして訊く。
「よく民家を簡単に漁れたな。ドアに鍵とか掛かってなかったのか?」
「玄関のドアなんかは鍵のかかってる家がほとんどだった。ただ、慌てて人が出て行ったような家が多くてな。ちょっと探せばトイレの小窓や台所の勝手口とかところどころ鍵の掛かってない場所があってすんなり入れたよ」
「ふ~ん。そっかそっか。皆んな慌てて家を出て行ったんだな…」
頭には僅かながら浮かんだものの、匡は敢えて「不法侵入罪になるんじゃないか?」という疑問は口にしなかった。世界の現状は戦時中のそれと酷似した状態であり、非常識な考えも生きるためには仕方なしなどと考えたからである。
そもそも、日本国家自体が滅び、法律や規則などの概念が失われているこの世界は、何者にも縛られない野生動物達の社会となんら変わりない。
「でも中には人間が残ってる家があったりしてビビったこともあったけどな」
今度はチャラを抱き続ける結月が真上から訊く。
「そんな時はどうしてたの?まさか人を傷つけたりしてないわよね?」
「もちろん。覚醒する前も今も人を傷つけたことは一度たりともないよ。だから、家の中で人と鉢合わせた時は踵を返してその場を立ち去った。でもたまに一目散んで逃げちゃう人や、箒でガムシャラになって叩いてくる人もいたけどね。反撃したことは誓ってないよ」
この時、チャラの話しを聞いた三人は「なんと理性のある猫だろう」と思い、覚醒猫を見る目に変化があったものである。
「夕方頃には抱えきれないほどの食料を調達して、オレはばあちゃんの喜ぶ顔を想像しながら家に帰り着いた…けど庭の塀を越える前に異変に気付いた。家の外に近辺には強烈な血の匂いが漂っていたからね…オレは調達した食料を道端に放り投げて急いで血の匂いがする場所へ向かった。…縁側に三羽の化け物カラスが集まっているのが目に飛び込んで、その足元には血塗れで横たわるばあちゃんの身体があった…原型を留めないと言っていいほど痛めつけられたばあちゃんの身体を…あのカラスどもは容赦なくクチバシで千切って飲み込んでいた…」
「「「…………………………」」」
話を聞いていた三人が三人とも黙り込み、チャラにかける言葉をすぐには思いつかずにいたのだった…
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