季節は夏だけれど、空には今にも降り出しそうな灰色の雨雲が敷き詰め、辛うじて座ることが可能な家屋の屋根上に三人が改めて座り込む。
そして、結月の腕に抱かれたままのチャラが語り出す。
「ばあちゃんとオレは『神の戒告』があってからもずっと家を離れず住んでたんだ…と言うかばあちゃんは決して家を離れようとはしなかったな。移動するにも体力が無いし行く当ても無かったし…」
嫌な思い出を人が語る時のようにチャラの口調は重々しい。
「三日くらいは何事も無く平穏な生活を送れていたかな。でもそんな生活は長続きしなかった。この住宅街に住んでる結月なら知ってると思うけれど、あのカラスどもの所為でね」
聞いていた結月が暗い表情になり口を開く。
「うん。あのカラス達が人を襲い出した所為で住宅街の住人はみんな何処かへ行ってしまったわ。判断するのが遅れてしまったけれど、わたし達家族も父の田舎へ引っ越すことになって…」
結月はそこまで話すと口を紡ぎ黙り込んでしまった。
彼女の両親が行方不明になってしまったことを思い出してしまい、そちらに向けて想いを馳せたためである。
結月の早まる鼓動が自身の身体に伝わり、感情の変化に気づいていたチャラだったが続きを話し出す。
「ばあちゃんはオレの頭を撫でながらテレビのニュースを視て言ってたな…『これは大変な世の中になりそうだねぇ。チャラ。あんたともいよいよお別れの日が近づいてるのかも知れないよ』ってね。この時にはもう覚悟を決めてたのかもな…」
住宅街に住んでいながら病気の治療のため地下に眠っていた匡は、チャラの話しに真剣な面持ちで聞き入っている。
「可愛がってくれるばあちゃんと別れるなんて考えられない。そう思ったオレは自分の覚醒にも気付き、日中は庭の木陰で見張りをするのが日課になってた。数羽のカラスが家に入り込もうしたところを何度も退治したよ。絶対にばあちゃんを守り切る腹積りでいたんだ。でもずっと家に閉じこもっている訳にもいかない。備蓄していた少量の食料が底をつきたんだ…ばあちゃんを外出させることは出来ないと考えたオレは、代わりに食料を調達するためある日の午後に家を単独で出た。この判断が最悪の結果を真似向くことになろうとは知らずに…」
ここまで人の言葉を流暢に使い語るチャラに対し、聞き手の三人は何の疑問も抱かずに話を聞いている。
流暢に語れる理由はチャラがペットとして飼われていたのが大きな要因ではあった…
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