「…息はしてんな。安心したぜ」
八神の呼吸する音を聴き、柴門が胸を撫で下ろす。
鉄の盾は八神が気絶した時点で消えたが、それをものともせず拳を振り抜いたキガイの身体能力はやはりずば抜けていた。
「邪魔者は居なくなった。ここからはサシの勝負になるが逃げなくていいのか?」
マンションに潜む葵と美琴の存在はまだ気付かれていないようである。柴門としてはこのまま存在を知られずに、何としてでも決着をつけたいところであった。
「ば~か、調子こくなよ間抜けカラス。てめぇをぶっ飛ばさずに誰が逃げるかっての!」
そう言いながら八神を抱き抱えて倉庫の壁を背もたれにしてそっと下ろす。
八神を下ろすまでの過程をキガイはただ黙って身動き一つせず眺めていた。
動物の中でもカラスは抜きん出て狡猾な性格をしている筈だったが、一切手を出さずに傍観しているだけのキガイに対し、警戒しながら行動をとっていた柴門が拍子抜けする。
「てめぇ。隙だらけの俺に攻撃してこねぇなんて余裕の持ちすぎなんじゃね?」
「カッカッカッ!一対一なら絶対お前に負けることはないからな。このあとお前をなぶり殺しにする楽しみをじっくり味わうためよ」
「ああ、そうかよ」
柴門はキガイの自信たっぷりの言葉に少しホッとしていた。もし、人間のように「卑怯な真似などするものか」などと言われれば、葵と美琴の存在を隠している自分が卑怯者になってしまうのではないか?と考えていたからである。
まぁ、第三者的な立場で言わせてもらうなら、二人の存在をバラさずに戦っているのだから既に卑怯な感じがしないでもないのだが…
「カッカッカッ!じゃあ仕切り直しと行こうかっ!」
キガイが言い終わるや否や、まだ黒い羽根の舞い降りる空間を柴門目掛け突っ込む!
「へっ、てめぇのお陰で俺はもっと強くなれそうだぜ!ライトボムッ!」
「ん!?」
自身の周囲に羽根が舞い降り視界は悪かったが、柴門はお構い無しに技を放つ!ただし、放った先は敵に向かってではなく目前の地面に!
「ボムッ!」
至近距離の爆風によって柴門が後ろに吹き飛ぶ!
もちろんこれは攻撃を回避することと、敵に対しての目眩しでもあった。
キガイも多少は爆風を受けたが当然ノーダメージである。そのまま翼を広げて爆風を利用し上空に舞い上がる。
「なんだ?攻撃のためではなく回避するためだけに撃ったのか?」
いつの間にか家屋の屋根上まで移動した柴門が返す。
「ん、まぁな。でもそれだけじゃねぇけどな。とりあえず周りを見てみろよ」
「なにっ!?」
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